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原発不明癌

原発不明癌(CUP)とは、最初に癌が生まれた臓器(原発巣)が不明なままの癌であり、特定の治療方法を決められない原発不明癌の予後は、一般的に不良とされています。また、原発不明癌ではそもそもステージが設定されていません。

原発不明癌の10年生存率について信頼できるデータはありませんでしたが、九州大学病院がんセンターによれば、原発不明癌の1年生存率と5年生存率は以下のようになっています。

上記のデータから分かる通り、原発不明癌の生存率は厳しい数字となっています。

しかし、一方で原発不明癌の中には予後が良好な群もあることが分かっており、まずは診断時にどのような癌であるのかを正確に区別して、適切な治療計画を立てることが重要です。

※参照元:九州大学病院がんセンター|原発不明がん(https://www.gan.med.kyushu-u.ac.jp/result/cancer_of_unknown_primary/index2#:~:text=一般に原発不明がん,未満とされています。)

原発不明癌はどのような癌か

原発不明癌とは、「原発巣(最初に癌が発生した臓器)」が特定できない状態で発見された癌を指し、全ての悪性腫瘍のうち約2~5%程度を占めるとされています。これは診断時にすでに転移巣が先行して見つかり、徹底的な検査を行っても原発部位が明らかにならない場合に診断されます。

通常、画像検査(CT・MRI・PET)や病理検査などによって原発巣は同定されますが、癌が高度に進行している場合や原発巣自体が自然退縮している場合、発生部位が特定困難な解剖学的位置にある場合などにより、最終的に判別できないことがあります。

原発不明癌は単一の疾患名ではなく、転移の仕方・病理像・臨床経過などが大きく異なる腫瘍の集合体であり、病態や治療反応にもばらつきがあります。そのため、原発不明癌の診断にはまず包括的な画像検査と組織検査が行われ、加えて近年では免疫染色や遺伝子プロファイリング(がん遺伝子パネル検査)を用いて、可能な限り原発巣の手がかりを探る方法も導入されています。

治療法は原発巣の推定や転移部位の広がり、全身状態などにより決定され、HER2やPD-L1などのバイオマーカーの評価結果をもとに分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が検討される例もあります。ただし、原発巣が確定できないため、標準治療が存在しないケースも多く、あくまで個別化医療の観点からアプローチする必要があります。

原発不明癌にステージは存在しない

原発不明癌と診断される場合、すでに遠隔転移が認められていることが多く、病期分類(ステージ分類)は適用されません。代わりに、転移の範囲や臓器数、患者の全身状態(PS:Performance Status)によって治療方針が決定されます。

最終的に原発巣が分かる原発不明癌もある?

原発不明癌は「原発巣が不明な腫瘍の仮診断」であり、診断過程を進める中で原発巣が推定・特定されることがあります。特に、がん組織の形態的特徴や免疫組織染色(CK7/CK20、CDX2など)により、おおよその発生臓器を予測することが可能です。

また、がんゲノムプロファイリング(CGP検査)や、分子標的の発現状況をみる検査によって、治療標的の有無や臓器特異的な遺伝子変異が判明し、治療指針につながる例も報告されています。

たとえば、国立がん研究センター中央病院で2007~2015年に原発不明癌として診断された患者850人のうち、検査の継続によって371人(約44%)で原発巣が判明したと報告されています。

このように、治療開始後に原発巣が明らかになる例もあり、一定の病理的・臨床的特徴を持つ場合には「予後良好サブグループ」として特定の治療が行われます。

※参照元:日経メディカル「がんナビ」|「国立がん研究センター・希少がんセミナーより個別化医療に期待のかかる原発不明がん」(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/report/201711/553528.html)

※参照元:国立がん研究センター がん情報サービス|原発不明がん

原発不明癌が再発しやすい理由・しにくい理由

原発不明癌では、すでに癌が遠隔臓器へ転移した状態で見つかり、その状態も個人によって様々です。また、根本的に原発巣の特定ができないため、どういった治療がベストなのか判断することも難しくなります。そのため、仮にすでに見つかっている癌を治療できたとしても、実はまだ発見されていない癌が残っている可能性もあり、結果的に再び癌の症状が現れるといったリスクも高くなります。

原発不明癌発見のための診断

原発不明癌であっても、癌の診断の流れそのものに大きな変わりはありません。例えば、癌から組織細胞を採取し、病理検査を行って癌かどうかを診断するといった方法を行ないます。また、臓器によって癌の組織がある程度まで限定されるため、通常に各組織や臓器で発生する癌の状態と異なる様子が確認された場合には「転移巣」であると考えます。

そして原発不明癌の場合、腫瘍マーカーを活用した血液生化学検査や超音波検査、尿検査、レントゲン撮影などを活用してさらに詳細な癌の状態や病態を追求していくという流れです。

特に、臓器によって、通常発生しやすいがん組織が限定されるため、通常と異なるがん組織がある臓器に認められた場合には、転移巣であると判断されます。このため、がんが認められても、原発巣が明らかでない場合には、原発不明がんの可能性も考えて、さらなる診察や検査として腫瘍マーカーを含む血液生化学検査や尿検査、超音波(エコー)、胸部X線、胸腹部骨盤CTやMRIなどの画像検査 、必要に応じて乳房・婦人科・泌尿器科領域の診察や肛門付近の診察(直腸診)、内視鏡検査 (胃カメラや大腸カメラ)、FDG-PET/CT検査などを実施していきます。

引用元:国立がん研究センター希少がんセンター|原発不明がん(げんぱつふめいがん)(https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/primary_unknow_malignancies/index.html)

病理検査(細胞診・組織診)

原発不明癌でも一般的な癌でも、癌と確定診断を行うためには病理検査が欠かせません。病理検査は癌細胞の形態や組織の状態を観察し、免疫染色法などを用いて癌細胞由来の物質の有無を確認。癌細胞がどこの臓器から発生しているのかを分析していきます。

病理検査は細胞診と組織診に分類され、細胞診では患者から採取した痰や尿、腹水・胸水に癌細胞が存在しないか顕微鏡下で観察します。また、組織診は癌細胞よりもさらに広範囲の組織を採取し、より明確に癌の状態や特定タンパク質の有無を調べて原発巣を推定する検査です。

組織診を行うためにはあらかじめ腫瘍の一部を採取しなければならず、これは「生検」と呼ばれます。生検の方法としては手術によって癌の一部を切除する切除生検や、太めの針を患者の体に刺して体内の組織を採取する針生検といった方法があり、癌の発生部位や患者の状態によっては内視鏡が用いられることもあるでしょう。

原発精査(原発巣スクリーニング)

検査を実行する前に、患者の状態や症状を自覚した経緯、受診までの期間中の変化などを問診によって確認する診断方法です。本人を含めた家族の既往歴や持病の有無を確認し、家系的に推定される癌があるかどうかを判断することもあります。その上で、腫瘍マーカーを活用した血液検査や尿検査、全身スクリーニングを行うという流れです。

癌には様々な種類があり、発生し得る部位も全身に存在します。そのため、血液検査や尿検査などで不十分であれば、内視鏡検査やCT・MRI検査、骨シンチグラフィーやPET/CT検査といった検査が複合的に実施され、癌の種類や原発について可能な限り詳細な情報を収集します。

また、患者が女性の場合には乳癌や子宮癌といった女性特有の癌について可能性を検査したり、男性の場合には前立腺癌の検査を行ったりと、性別や体質に合わせた検査メニューの構築も不可欠です。

特に、頭や首(頭頸部)や肺が原発のがんを見つけるのに、FDG-PET/CT検査が有用であるとわかっています。

腫瘍マーカーとは、腫瘍細胞から出てくる物質を血液で検出するものです。しかし、身体の中にがんがあっても高値を示さないこともありますし、逆にがんがなくても、高値になる場合があることも知られています。ただし、胚細胞腫瘍、甲状腺(こうじょうせん)がん、前立腺がん、卵巣がんという限られたがん種の検索には腫瘍マーカーも有用です。胚細胞腫瘍ではAFPやβ-hCG、前立腺がんではPSA、卵巣がんではCA125、甲状腺がんではTg(サイログロブリン)が対応する腫瘍マーカーになります。また、診断時に上がっている腫瘍マーカーについては、その後の治療の効果を判断するのに、参考となる場合があります。

引用元:国立がん研究センター希少がんセンター|原発不明がん(げんぱつふめいがん)(https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/primary_unknow_malignancies/index.html)

なお、これらの検査やスクリーニングを行ったにもかかわらず、原発巣の特定が困難となっている場合、改めて「原発不明癌」として診断されることもポイントです。

原発不明癌であっても原発巣は存在する

十分な検査や診断を行ったにもかかわらず、原発巣が確定できないとすれば、ひとまず原発不明癌として診断されて治療へ進むことになります。

ただし、原発不明癌は「その時点で原発巣について確定診断が行えていない」」というだけであり、癌である以上、必ず体のどこかには最初に癌が発生した原発は存在すると考えられます。

様々な病態が存在する原発不明癌。患者の個人差によっても診断結果や症状などが異なります。そのため、個々の原発不明癌を見ると珍しい状態になるというケースも少なくありません。しかし、原発不明癌としてカテゴライズされる癌患者の総数は決して少なくなく、原発不明癌と診断されても直ちに治療が困難だと不安視したり、再発リスクや死亡リスクが高いと決めつけたりする必要はありません。

がんには、必ず最初に発生した臓器(原発巣)が存在するはずですので、検査によって、その原発巣がわかることがほとんどです。ところが、原発不明がんといって、十分な精密検査(画像診断 や病理診断 )でも原発巣がはっきりせず、転移病巣だけが判明するがんも存在します。原発不明がんには、病気の部位やがんの種類(組織型)が異なるさまざまな病態が含まれます。そのため、患者さんごとに病気の状態が異なり、個々の病態については患者さんの数が少ないまれながんといえます。しかし、原発不明がんと診断される方をすべてあわせると、成人固形がんの1%から5%を占めるとされており、患者さんの数は少なくありません。

引用元:国立がん研究センター希少がんセンター|原発不明がん(げんぱつふめいがん)(https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/primary_unknow_malignancies/index.html)

原発不明癌に用いられる治療法

まず、原発不明癌であっても、原発巣がある程度まで推定できて「予後良好群(サブグループ)」に分類されるものなのか、それとも全く原発巣が不明な「予後不良群」に分類されるのかを見極めるために、画像検査・組織検査・免疫染色・遺伝子解析などを用いた精密な診断が必要です。

原発不明癌のうち約15〜20%はサブグループに分類され、例えば「女性骨盤内腺癌」や「頸部リンパ節の扁平上皮癌」など、臨床経過や病理所見が他の既知の癌に類似しており、その内容に応じて外科治療・放射線治療・薬物療法、またはそれらを組み合わせた治療が選択されます。これらは「原発不明がん診療ガイドライン」や「NCCNガイドライン原発不明がん」など国際的な診療基準に準拠して行われます。

一方、サブグループに該当しない原発不明癌の場合、治療方針の決定が困難なことも多く、標準的には全身への薬物療法が主体となります。使用される薬剤としては、プラチナ製剤(カルボプラチン、シスプラチン)やタキサン系(パクリタキセル)を中心に、多くの場合は併用療法が検討されます。

また近年では、がん遺伝子パネル検査などを活用して、治療可能な分子標的(例:HER2、BRAF、NTRKなど)が見つかった場合には、該当する分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブなど)を使用することもあります。これにより、原発不明癌であっても「がん種横断的治療」が実現するケースも増えてきています。

原発不明癌の診療は、希少がんとして現在も多くの臨床試験や国際共同研究が進行中であり、今後はさらに個別化医療の進展が期待されます。

※参照元:国立がん研究センター希少がんセンター|原発不明がん(https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/primary_unknow_malignancies/index.html)

※参照元:国立がん研究センターがん情報サービス|原発不明がん(https://ganjoho.jp/public/cancer/unknown/treatment_option.html)

原発不明癌を再発させないための予防法

そもそも原発巣が特定されない原発不明癌では、何が癌の原因となっているのか判断することも難しいと言わざるを得ません。そのため、原発不明癌を再発させない予防法は「あらゆる癌の予防を心がける=健全な生活を保つ」ことが重要になります。

飲酒や喫煙、食事内容、適度な運動といった生活習慣の見直しはもちろん、自覚症状の有無に関係なく定期検診をきちんと受け、再発が疑われた時は少しでも早く発見することが大切です。

なお、原発巣が推定されてサブグループに分類された人であれば、それぞれの癌に応じた予防法を心がけるべきでしょう。