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多発性骨髄腫

掲載している治療法は保険適用外の自由診療も含まれます。自由診療は全額自己負担となります。症状・治療法・クリニックにより、費用や治療回数・期間は変動しますので、詳しくは直接クリニックへご相談ください。
また、副作用や治療によるリスクなども診療方法によって異なりますので、不安な点については、各クリニックの医師に直接確認・相談してから治療を検討することをおすすめします。

多発性骨髄腫の5年生存率・10年生存率

多発性骨髄腫の10年生存率については信頼できる情報元が見つからなかったため、5年生存率についてのみ言及します。

5年相対生存率(2009~2011年):42.8 %(男性41.9 %、女性43.6 %)

※参照元:国立研究開発法人国立がん研究センター がん情報サービス/集計表ダウンロード(5年相対生存率(1993年~2011年診断例)cancer_survival(1993-2011).xls(126KB))※Excelデータ

多発性骨髄腫は、病気の進行状態でステージが分類されており、2015年に病期の分類定義が改定。アルブミンとβ2ミクログロブリン、LDHと呼ばれる乳酸脱水素酵素および染色体異常の程度で分類されています。

多発性骨髄腫はどのような癌か

血液細胞というものが骨の中の骨髄で造られることで血液が体内で増えていきます。多発性骨髄腫は、その骨髄の中にある形質細胞という細胞が悪性腫瘍に変わり、癌となってしまうことを指します。

形質細胞は血液細胞を造ると同時に、体外から侵入したウイルスなどを撃退する役割を持つ抗体もつくっている細胞です。形質細胞が癌になって骨髄腫細胞に変化すると正常な抗体がつくられず、今までとは異なるものをつくりはじめます。これを、M蛋白と呼びます。

M蛋白は通常造られている抗体(免疫グロブリン)と違って抗体の働きをしません。M蛋白の量で多発性骨髄腫の病気の程度を判断し、治療方針や効果の程を確認します。

多発性骨髄腫は血液の癌の1つですが、よく知られている血液の癌に白血病が挙げられます。白血病は若年層にも発病し、進行も早いことが知られていますが、多発性骨髄腫は進行が遅く、症状もあらわれないこともあります。

また、50代から~70代といった比較的年齢の高い層に発病することが多く、男性の方が女性よりも患者数は多いといった特徴も。白血病とは異なります。統計によると、2018年の1年間で10万人に5.8人が発症しています。

参照元:国立研究開発法人国立がん研究センター がん情報サービス/集計表ダウンロード(全国がん罹患データ(2016年~2018年)cancer_incidenceNCR(2016-2018).xls(478KB))※Excelデータ

多発性骨髄腫はなぜ起こるのかについてはまだわかっていませんが、近年の研究で多発性骨髄腫に対しての治療は発展している分野の1つです。適切な治療を行なうことで、症状を和らげたり、寛解を目指したりすることも可能で、再発を防ぐためにできることもあります。医師と相談のうえ、適切な治療方法の検討と決定を行なってください。

多発性骨髄腫の症状は、造血作用が弱くなることによって頭痛、貧血、倦怠感、息切れ、動悸といった症状が引き起こされます。また、骨髄腫細胞が異常増殖するため、骨にも影響がでるため骨がもろくなったり、ひどい場合には骨折や関節の痛みなどが引き起こされたりすることも。

骨が溶ける状態になるため、溶けた骨から血液に放出されるカルシウムが、口の渇きや吐き気などを引き起こすこともあります。

最後に、骨髄腫細胞によってM蛋白が増加することにより、抵抗力がなくなり風邪や感染症にかかりやすくなります。血液がドロドロの状態になるので、血液をろ過する働きを持つ腎臓にも大きな負担をかけ、腎機能低下・腎機能障害を引き起こすこともあるのです。

このように、多発性骨髄腫はさまざまな症状が出てくる病気といえます。

多発性骨髄腫が再発しやすい理由・しにくい理由

多発性骨髄腫は、症状が一度緩和されても、再発したり、病状が進行したりする可能性が高い癌の1つです。

多発性骨髄腫の治療には主に化学療法が用いられますが、再発の患者には初回で使った抗癌剤を再び用いるか、他の種類の抗癌剤を用いるか選択することができます。近年、使える抗癌剤の種類が増えてきており、治療実績も改善されてきているようです。

多発性骨髄腫に用いられる治療法

多発性骨髄腫の治療に関しては、まず患者の年齢や状態などから移植適応か移植比適応かが検討され、それぞれの結果によって初期治療の治療方針が決定されます。

移植適応の条件としては「65歳以下」や「重篤な合併症なし」などいくつかのものがありますが、患者自身が移植を希望するかどうかという意思も同様に尊重されることがポイントです。

また、臓器障害や疼痛症状などの有無によっても選択される治療プランは変更されますが、中には自覚症状が出にくい病態も存在するため、最初の検査や診断をきちんとすることが重要です。

以下では多発性骨髄腫の治療に関して内容ごとに解説していきます。

初期治療

多発性骨髄腫と診断が下った時点で、まず骨髄腫の細胞を減少させる化学療法(薬物療法)が検討されます。また、患者が移植条件に適合する場合、造血幹細胞移植が行われることもあるでしょう。

移植可能な患者の場合(65歳以下)

一般的に、臓器の機能が維持されている65歳以下の患者で、重篤な合併症なども存在していない場合、造血幹細胞の自家移植が検討されます。

また、自家移植を実施する前に、導入療法として化学療法による骨髄腫細胞の減少が目指されます。導入療法を行った後に検査を行い、治療効果が十分に得られていると判断されれば、改めて自家移植が可能かどうか検討される流れです。

治療効果の判定には、骨髄腫細胞が産生する「Mタンパク」を指標とします。治療開始前と比較して、血液中あるいは尿中のMタンパクが一定程度以上減少した場合には、「奏効した」と判定されます。導入療法が奏効した場合は、造血幹細胞採取という処置を行い、造血幹細胞を十分量採取した上で、自家移植を行います。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 多発性骨髄腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/treatment.html)

自家移植を実施する場合、抗がん剤(メルファラン)を大量に投与することで高い抗腫瘍効果が期待できるとされており、これを「大量メルファラン療法」と呼びます。

なお、初期治療を経ても骨髄腫細胞の減少が思うように認められなかった場合、他の導入療法を再検討しなければなりません。

導入療法の種類

65歳以下の多発性骨髄腫患者に対して、自家移植を目指して行われる導入療法には複数の種類が存在し、実際にどのような方法を選択するかは患者の状態や合併症の有無といった条件を総合的に判断して決定されます。

導入療法の中には高い治療効果を期待できるものがありますが、一方で治療の毒性や副作用が強化されることもあり、バランスをきちんと見極めながら導入療法を選択しなければ、自家移植のための造血幹細胞採取が難しくなる場合もあります。そのため、具体的にどのような導入療法を選択するかは主治医としっかり相談した上で、各種検査の結果にもとづいて考えることが大切です。

推奨される導入療法としては、高い奏効割合が期待できるボルテゾミブとデキサメタゾン(ステロイド剤)併用の導入療法(BD療法)を3~4コース施行したあとに、シクロホスファミド大量療法にG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)という白血球をふやす薬を併用、またはG-CSFのみを使用して、患者さんの末梢血から造血幹細胞を採取します。より高い効果を期待できる導入療法として、前述のBD療法にシクロホスファミドやドキソルビシンを加えた治療もありますが、同時に毒性も増強することに留意する必要があります。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 多発性骨髄腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/treatment.html)

自家造血幹細胞移植

造血幹細胞は血液を産生するために必要な細胞です。

多発性骨髄腫患者における自家造血幹細胞移植は、まず大量の抗がん剤を投与する「大量化学療法」によって、骨髄腫細胞を可能な限り減少させます。その後、患者から採取した正常な造血幹細胞を患者の体内へ点滴で注入し、患者の造血機能を回復させる流れです。

造血幹細胞移植には、患者自身の細胞を利用する自家移植と、他人から採取した細胞を移植する同種移植がありますが、同種移植では拒絶反応などのリスクが高まるため、一般的に多発性骨髄腫の治療では自家造血幹細胞移植が採用されます。

自家造血幹細胞移植が成功した場合、患者に正常な骨髄細胞の機能が取り戻されるため、患者の生存期間も長くなることが期待されます。ただし、事前にきちんと骨髄腫細胞を減少できていなければ十分な移植効果を得られないため、導入療法の成功が鍵です。

寛解導入療法後、早期に自家造血幹細胞移植を行うことが勧められています。移植の前処置として、2日間にわたり大量メルファランの投与を行い、その翌々日に凍結しておいた自家造血幹細胞を急速解凍して静脈から体内に注入します。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 多発性骨髄腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/treatment.html)

維持療法

初期治療や自家造血幹細胞移植を行った後、その治療効果を少しでも高めるために「維持療法」が実施されており、特に骨髄移植後の維持療法は有用性が期待されています。

ただし、維持療法による新しい癌の発生リスクも懸念されるため、実際に維持療法を行うかどうかは総合的な判断に則って考えなければなりません。

骨髄移植をした場合には、サリドマイドによる維持療法の有用性が報告されており、長期投与による末梢神経障害を考慮し投与期間を1年未満とすることと、高齢者には慎重に投与することが推奨されています。また、レナリドミドによる維持療法の有効性も報告されていますが、二次がんの可能性が示されており、実際の治療に際してはメリットとデメリットに関する説明を十分に受けることが望まれます。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 多発性骨髄腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/treatment.html)

移植を行わない患者の場合

一般的に66歳以上の多発性骨髄腫患者や、65歳以下でも移植条件に適合しない状態、また本人が移植を希望しないといった場合において、複数の薬剤を利用した多剤併用療法が初期治療として選択されます。

ただし、薬剤によっても使用できる条件が定められているため、複数のリスク要因を検証しながら患者にとって適切と判断される治療を選択することが重要です。

一般に、66歳以上の患者さん、および65歳以下で重要な臓器の障害などのために自家移植を行わない患者さんには、ボルテゾミブやレナリドミドなどの薬剤を中心とした多剤併用療法が行われます。患者さんの年齢や末梢神経障害、血栓症などのリスクや肺の合併症などにより、これらの薬剤が使用できない場合には、従来のMP療法(メルファラン+プレドニゾロン)などの選択肢もあります。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 多発性骨髄腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/treatment.html)

再発癌・難治性骨髄腫への治療

再発した多発性骨髄腫や、基本的な治療によって効果が期待できないような難治性骨髄腫の場合、保険承認されている薬剤による薬物療法が検討されます。

なお、どのような薬剤を利用するかや、どのような治療プランを作成するかは、初回治療から再発までの期間や患者の状態などによって判断されます。

再発した場合や進行・治療抵抗性の骨髄腫の治療においては、ボルテゾミブやレナリドミド、サリドマイドに加えてカルフィルゾミブやポマリドミドなどの薬剤が保険承認され、一定程度の治療効果が報告されています。一般的に、これらの薬はデキサメタゾンと併用して用いられます。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 多発性骨髄腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/treatment.html)

初回治療終了から半年以上経過後の再発・再燃

初回の治療を終えてから多発性骨髄腫の再発・再燃まで半年以上経過している場合、改めて初期治療を行うことで治療効果が期待できる可能性がある点は重要です。そのため、患者の状態を観察しながら初期治療を再び行うか、初期治療では採用しなかった薬剤を改めて使用するかといったことが検討されます。

なお、自家造血幹細胞移植を再び実施するかどうかについては、前回の移植から2年以上経過しているかどうかがポイントになります。

移植適応でない患者の場合、初回治療から1年以上が経過していれば同じ治療を繰り返すか、そこへ新しい薬剤を追加して治療を行うことが一般的です。

いずれにしても初回治療で得られた効果や使用した薬剤などの条件が重要になるため、前回の治療内容をきちんと踏まえた上で検査や診察を行うことが大切です。

この場合には、初回導入療法が奏効する場合もあり、初回導入療法を再度試みるか、初回療法で用いられていない薬剤(ボルテゾミブ、レナリドミド、カルフィルゾミブ、サリドマイドなど)を含む治療に変更します。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 多発性骨髄腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/treatment.html)

初回治療終了から半年未満での再発・再燃

初回治療が適正に終えられたにもかかわらず、短い期間で多発性骨髄腫が再発・再燃した場合、難治性骨髄腫としての対応を考えなければなりません。また、染色体異常が認められるような場合、特定の薬剤を使用した救援療法(救援化学療法)が優先的に用いられることはポイントです。

具体的な治療プランは初回治療の内容や、現時点での患者の状態などを多角的に考慮して策定されますが、HLA(ヒト白血球抗原)の適合する移植ドナーが見つかっている場合、同種移植という選択肢もあるでしょう。ただし、同種移植では期待通りの治療効果や生存率を得られないこともあり、一般的に推奨される治療法にはなっていません。

このような難治性骨髄腫の場合、また、予後不良な染色体異常を伴う場合には、ボルテゾミブやサリドマイド、レナリドミド、カルフィルゾミブなどを含む救援化学療法(救援療法)が優先されます。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 多発性骨髄腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/treatment.html)

救援化学療法が奏効してHLA(ヒト白血球抗原)が適合するドナーがいる場合には、同種造血幹細胞移植という選択肢もありますが、移植後早期の死亡率が高く、再発・再燃も高頻度であることから、臨床試験の範囲で行われることが望ましいとされています。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 多発性骨髄腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/treatment.html)

薬物療法

多発性骨髄腫の患者に対しては、骨髄腫細胞を殺して患者の状態を良くしたり、病気の進行を緩和させたりする目的で薬物療法(化学療法)が重視されています。

ただし、薬物療法では治療効果だけでなく副作用についても検討しなければならず、常にメリットやデメリット、効果とリスクのバランスを考えながら使用する薬剤を選択することが不可欠です。

なお、抗がん剤の他にも分子標的薬やステロイド剤が併用されて、複合的な治療が行われることもあります。

2021年8月時点で、一般的に多発性骨髄腫の治療に用いられる薬剤には以下のようなものが挙げられています。

ボルテゾミブ(ベルケイド)

不要なタンパク質を分解する酵素の働きを阻害して、骨髄腫細胞の増殖を抑える分子標的薬です。保険診療として利用される薬剤であり、多発性骨髄腫の初期治療から再発癌・難治性骨髄腫の治療にまで幅広く利用されます。

反面、肺障害などの重篤な副作用リスクもあり、使用前に胸部のレントゲン検査などで異常の有無を細かく確認することが必要です。また、投与後に息切れや咳、発熱症状などが見られた場合、速やかに主治医へ相談しなければなりません。

その他にも末梢神経障害や貧血、白血球減少といった副作用のリスクもあり、定期的な検査を行いながら症状に合わせた治療を併用することが大切です。

注意を要する副作用として、末梢神経障害と骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、貧血)があります。末梢神経障害は、特に足の疼痛を伴う知覚異常としびれがあり、疼痛を伴う場合にはボルテゾミブの減量や休止が勧められています。骨髄抑制では、定期的な血液検査を行い、必要に応じてG-CSF製剤(白血球をふやす薬)などの投与や輸血などを行います。その他に、発熱、発疹、胃腸障害(便秘、下痢、悪心)などが起こることがあります。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 多発性骨髄腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/treatment.html)

レナリドミド(レブラミド)

免疫系に作用する免疫調節薬であり、骨髄腫細胞を抑制するために働きます。

治療効果を認められている薬剤ですが、サリドマイドと同類の薬剤であり、妊婦や妊娠している女性に投与した場合、胎児に奇形を生じるリスクが高まります。そのため、それらの可能性が懸念される患者に投与する場合、事前に詳細な安全管理システムを踏襲が不可欠です。

通常、成人はデキサメタゾンと併用し、1日1回、21日間連続で内服したあと、7日間休薬します。この28日間を1サイクルとして繰り返します。なお、患者さんの状態により適宜減量されます。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 多発性骨髄腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/treatment.html)

妊婦や妊娠の可能性のある女性への副作用の他にも、肺や足の静脈に血栓を生じるリスクなどがあり、特に一部の薬剤との併用療法で副作用リスクが高まると報告されています。そのため、高リスク患者に対してレナリドミドを使用する場合、血栓を予防するための薬が投与されることもあります。

サリドマイド(サレド)

免疫調節薬の1つであり、骨髄腫細胞の増殖を抑えて癌の進行を遅らせる治療効果を期待できる薬剤です。

そもそもサリドマイドは1950年代に鎮静薬として販売されたものの、妊婦が服用して多くの胎児に重度の先天異常が引き起こされ、世界中で販売が中止されました。

現在は多発性骨髄腫の治療薬としての効果が認められており、日本でも2008年から再び承認されましたが、妊婦や胎児への危険を予防するために厳格な安全管理システム「サリドマイド製剤安全管理手順」が定められています。

なお、サリドマイドの使用に注意すべきは女性だけでなく、男性に対して使用された場合にも避妊の徹底といった条件があります。

承認条件として、胎児への薬剤の影響を防ぐために、「サリドマイド製剤安全管理手順(TERMS(R))」という安全管理システムの遵守が医療機関に義務付けられ、厳重な安全管理の下、使用する必要があります。妊婦または妊娠している可能性のある女性には使用できず、男性患者では避妊を徹底することが必須です。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 多発性骨髄腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/treatment.html)

その他の薬剤

上記の他にも免疫調節薬「ポマリドミド(ポマリスト)」や、分子標的薬「カルフィルゾミブ(カイプロリス)」など、様々な薬剤が治療候補として検討されますが、いずれの場合も使用には細かな条件があり、メリットとリスクのバランスを考えることが必要です。

放射線治療

多発性骨髄腫の治療において、骨髄腫細胞と親和性の高い放射線治療は薬物療法と併用する形でしばしば採用されています。

疼痛緩和目的

骨病変によって疼痛が発生している場合、放射線治療によって痛みを緩和できることがあります。

腫瘤の消失・縮小を目的

腫瘤に対しては、放射線治療によって消失や縮小を目指すこともあります。なお、腫瘤のケアを目的とする場合、疼痛緩和の場合よりも放射線の照射量は多くなることが一般的です。

また、骨髄腫が脊髄を圧迫して運動障害などが生じている場合、放射線治療に加えてMRIによる診断やステロイド剤による薬物療法などを併用して、可能な限り迅速に対処することが必要です。

合併症治療とQOL

多発性骨髄腫では様々な合併症が表れるケースも少なくありません。そのため、合併症が認められる場合には癌治療と並行してそれらの治療を進めることも重要です。

また、根治を目的とした治療が難しいと判断される場合、患者の生活の質(QOL)を守るための治療を優先することもあります。

多発性骨髄腫を再発させないための予防法

多発性骨髄腫の発症の原因はまだ解明されていないので、どういった場合に再発するのかということも判明していません。しかしながら、出現する症状を緩和するための対処を行なうことはできます。

多発性骨髄腫の進行は他の癌と比較して遅いのが特徴なので、自覚症状が出るよりも先に医師から再発の兆候を指摘されることが多いようです。そのため、定期的な健診が必要でしょう。

寛解とはいかなくても、症状が安定してきている人は、油断せず手洗いやうがいといった感染症の予防を徹底しましょう。

適度な運動も効果があります。運動は骨に刺激を与え、骨を丈夫にする働きがあるためです。

腎臓に負担をかけ過ぎないように、こまめな水分補給も効果があります。医師の指導のもと、適切な予防法を実施しましょう。

多発性骨髄腫のステージ

ここでは、ステージごとの多発性骨髄腫の状態について解説します。

ステージ分類

Ⅰ期 血清β2-ミクログロブリン値が3.5mg/l以下、かつ血清アルブミン値が3.5g/dl以上であり、染色体異常が見られず、血清LDHも正常値である状態です。
Ⅱ期 Ⅰ期にもⅢ期にも該当しない状態です。
Ⅲ期 血清β2-ミクログロブリン値が5.5mg/l以上であるとともに、高リスク染色体異常か、血清LDHが高値である状態です。

ステージの分類方法

多発性骨髄腫のステージ分類には、血清のアルブミン値とβ2ミクログロブリン値に基づく国際病期分類(International Staging System:ISS)を用いることが推奨されてきました。近年では、国際病期分類の定義に「高リスク染色体異常の有無」と「血清LDH濃度」の二つの基準を追加した改訂国際病期分類も用いられています。

血清とは

血液が固まる際に分離した上澄みのことを、血清といいます。主な成分はアルブミンやグロブリンであり、これらの数値を調べることにより体の栄養状態などが分かります。

アルブミンとは

アルブミンは、血液の中に含まれるタンパク質の一種です。血清アルブミン値が低すぎる場合は栄養状態の悪化や肝疾患、悪性腫瘍などが、高すぎる場合は脱水が疑われます。

β2-ミクログロブリンとは

β2-ミクログロブリンは、細胞膜の表面に広く分布するタンパク質です。多発性骨髄腫のような悪性腫瘍や炎症性の疾患があると体内で過剰に作り出され、それにともなって血清中のβ2-ミクログロブリン濃度が上昇します。

高リスク染色体異常とは

体の細胞が分裂する際、核の中にあるひも状のDNAが折りたたまれ、棒のような形になったものが染色体です。

染色体は、2本で1セットとして数えられます。ところが、場合によっては、2本あるはずの染色体が1本しかない、3本あるといった異常が生じることも。また、棒状であるはずの染色体が丸まっている、構造の一部が欠けたり、重複したりしているといった異常が起こることもあります。こうした異常を総称して、染色体異常と呼びます。

多発性骨髄腫の場合、特定の染色体異常があると、「病気の進行が速い」「薬が効きにくい」など、治療に際して様々な不利が生じることが分かっています。「高リスク染色体異常」とは、このように治療に対して悪影響を及ぼす染色体の異常のことを指す言葉です。

血清LDH濃度とは

LDH=乳酸脱水素酵素は、肝臓や赤血球、筋肉などにある酵素です。悪性腫瘍の中にも豊富に存在するため、血清LDH濃度が高い時には、肝臓や心臓の疾患のほか、多発性骨髄腫を含む癌にかかっていることが疑われます。

ステージごとの治療方針

Ⅰ期

多発性骨髄腫であることが分かっても、体の痛みや倦怠感といった症状がまったく表れていない場合は、定期的に検査をしながら経過を観察するのが一般的です。症状が現れたり、病気が進行していることが分かったりした場合には、化学療法などの治療が開始されます。

Ⅱ期、Ⅲ期

治療のメインを担うのは化学療法です。患者さんの状態に応じて、抗がん剤やステロイド剤、免疫抑制剤などを組み合わせて治療を進め、腫瘍細胞の増殖を抑えます。

また、患者さんが65歳以下である、重い合併症がないなどの一定条件を満たし、かつ患者さん本人が希望する場合は、血液細胞のもとになる造血幹細胞の自家移植も行われます。

Ⅱ期、Ⅲ期の多発性骨髄腫と診断された場合は直ちに治療を開始することが推奨されますが、骨折や腎不全といった合併症が見られる場合は、まずそちらの治療が優先されることも。また、腫瘍の縮小や痛みの緩和を目的として、放射線治療が行われることもあります。