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また、副作用や治療によるリスクなども診療方法によって異なりますので、不安な点については、各クリニックの医師に直接確認・相談してから治療を検討することをおすすめします。
癌と糖尿病は、いずれも日本人の罹患率・死亡率が高い疾患ですが、この2つの間に深い関連があることが多くの研究で示されています。 癌と糖尿病の関係、癌治療が血糖値に与える影響、そして糖尿病治療薬とがんに関する最新の研究動向についてご紹介します。
そもそも(2型)糖尿病とは、遺伝的な要因に加え、 栄養過多や運動不足などの生活習慣により、膵臓からのインスリン分泌が低下したり、インスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性)ことで、血液中のブドウ糖(血糖)を細胞がうまく利用できなくなり、血糖値が高い状態が続く病気です。高血糖は血管にダメージを与え、網膜症、腎症、神経障害といった細小血管合併症や、心筋梗塞、脳卒中などの大血管合併症のリスクを高めます。 一方、癌とは、遺伝子の変異により細胞が異常な増殖を始め、周囲の組織に広がったり(浸潤)、他の臓器に移動したり(転移)する病気です。
一見異なる病気に見えますが、両者の関連は非常に強いことが分かっています。日本糖尿病学会の最新の死因調査(2011年~2020年のデータ、2024年発表)によると、糖尿病患者の死因の第1位は依然として悪性新生物(がん)であり、全体の約40%を占めています。これは、感染症(約18%)、血管疾患(約11%)を大きく上回っています。また、多くの疫学研究やメタ解析の結果、糖尿病(主に2型)の人はそうでない人と比較して、特定のがんを発症するリスクが高いことが示されています。全体としてがんになるリスクは約1.2倍とされ、特に肝臓がん、膵臓がん、大腸がんのリスク上昇が報告されています。一方で、前立腺がんのようにリスクが同等または低下するという報告もあります。
糖尿病が癌リスクを高めるメカニズムは複雑で、完全には解明されていませんが、以下の複数の要因が関与すると考えられています。
●高インスリン血症・インスリン抵抗性…インスリンやIGF-1(インスリン様成長因子-1)は細胞の増殖を促す作用があり、高濃度になるとがん細胞の増殖や生存を助ける可能性があります。
●高血糖…高血糖状態は酸化ストレスを引き起こし、DNA損傷や細胞機能の障害を通じて発がんを促進する可能性があります。
●慢性炎症…糖尿病や肥満に伴う慢性的な炎症状態は、がんの発生や進展に関与すると考えられています。
●アディポカイン…肥満に伴い脂肪細胞から分泌されるアディポカイン(生理活性物質)のバランス異常が、がんリスクに関係する可能性も指摘されています。
●腸内細菌叢の変化…近年、糖尿病患者で見られる腸内細菌叢の変化と、がんリスクとの関連も研究されています。 これらの要因に加え、肥満、運動不足、不健康な食事、喫煙といった生活習慣は、糖尿病とがんの双方に共通するリスク因子であり、両疾患の関連性に寄与していると考えられます。
逆に、がんが糖尿病の発症に関与することもあります。特に膵臓がんでは、がん自体がインスリン分泌を抑制したり、インスリン抵抗性を引き起こしたりすることで、糖尿病を発症したり悪化させたりすることが知られています。 メカニズムの詳細はまだ研究中ですが、がん細胞が産生するサイトカインなどがインスリン抵抗性を引き起こし、血糖値が上昇する可能性が考えられています。
がんの治療法も血糖値に大きな影響を与えることがあります。
●ステロイド…吐き気止めやアレルギー反応の抑制、治療効果の増強などを目的に広く使われますが、血糖値を上昇させる代表的な薬剤です。
●特定の化学療法薬や分子標的薬…一部の薬剤は、膵臓のインスリン分泌細胞にダメージを与えたり、インスリン抵抗性を引き起こしたりして、高血糖や糖尿病を発症させることがあります。
●免疫チェックポイント阻害薬…近年広く使われるようになったこのタイプの免疫療法薬は、自己免疫反応を介して膵臓のβ細胞を破壊し、劇症1型糖尿病を含む重篤な高血糖を引き起こすことがあるため、注意が必要です。
これらの治療により、もともと糖尿病でなかった人が治療中に糖尿病を発症したり、既に糖尿病のある人の血糖コントロールが著しく悪化したりすることがあります。そのため、がん治療中は定期的な血糖値のモニタリングと、必要に応じた血糖管理(食事療法、運動療法、薬物療法)が非常に重要です。
糖尿病治療薬ががんリスクに与える影響についても、長年研究が行われています。
メトホルミンは、古くから使われている糖尿病治療薬で、多くの観察研究でメトホルミン服用者のがんリスク低下や予後改善が報告され、注目を集めました。そのメカニズムとして、AMPK活性化による直接的な抗腫瘍効果や、インスリン抵抗性改善による間接的な効果などが考えられています。しかし、その後のランダム化比較試験(RCT)では、一部のがんを除き、必ずしも生存期間の延長など明確な効果が示されているわけではありません。がん予防効果に関する大規模なRCTも進行中ですが、現時点でがんの予防や治療目的でメトホルミンを使用することは推奨されていません。
その他の糖尿病薬としては、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬といった新しいタイプの糖尿病薬についても、がんリスクとの関連が研究されています。現時点では、これらの薬剤が特定のがんリスクを明確に増加または減少させるという一貫したエビデンスは確立されていません。一部の薬剤では、特定の動物実験や観察研究で懸念や期待が示唆されることもありますが、ヒトでの長期的な影響については、さらなるデータの蓄積が必要です。
重要なことは、糖尿病治療薬はあくまで血糖コントロールを目的として使用されるべきであり、自己判断でがん予防のために使用したり、中止したりすべきではないということです。がんリスクや治療に関する不安がある場合は、必ず主治医に相談してください。
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