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精巣癌

当ページでは、精巣癌(精巣腫瘍)の概要と再発について解説しています。
※一般的に「精巣がん」と呼ばれることが多いですが、良性のものも含めて「精巣腫瘍」と総称されることもあります。ここでは主に悪性腫瘍について解説します。

精巣癌とは、男性のいわゆる「睾丸」に発症する癌のこと。全年齢を対象にすれば非常にまれな癌ですが、15歳から35歳くらいの思春期・若年成人の男性に限った場合、最も頻度の高い固形がんの一つであり、決して珍しい癌ではありません。

原発であれ再発であれ、早期発見・早期治療により治癒(ちゆ)する可能性の高い癌です。入浴時などに精巣の大きさや硬さの変化に気づいた場合には、恥ずかしがらず早期受診を心がけましょう。

精巣癌とは

精巣癌とは、いわゆる「睾丸」に発症する癌のこと。精巣とは、男性ホルモンと精子を生産している卵型の臓器で、通常、陰嚢という袋の中で左右に1個ずつ存在します。

発症の初期段階における自覚症状は、痛みがないことが多く、ほとんどありません。下腹部の重圧感や鈍痛、まれに急性の精巣痛などを自覚する患者もいますが、その多くは無痛性のしこりや精巣の腫れ(腫大)により腫瘍が発見されます。

精巣癌の直接的な原因はまだ完全には不明です。ただし、以下のような人は精巣がんになりやすいリスクが高いとされています。

なお、精巣癌の進行度を示す病期(ステージ)分類には、国際的に用いられているTNM分類があり、腫瘍の大きさや広がり(T)、リンパ節への転移の有無と範囲(N)、他の臓器への遠隔転移の有無(M)に加え、血液中の腫瘍マーカー(AFP, hCG, LDH)の値も考慮して総合的に決定されます。
一般的には、以下のように大きく3つのステージに分けられます。

※実際には、転移巣の大きさやマーカー値により、さらに細かく分類され、治療方針が決定されます。

精巣癌の再発リスク

ステージⅠの場合(転移がない場合)、適切な初期治療(主に高位精巣摘除術)の後、組織型やリスク因子によって方針は異なりますが、治療せず経過観察(積極的サーベイランス)のみでも多くの場合再発しません。仮に再発しても、早期に発見し化学療法(抗がん剤治療)や手術を行えば、高い確率で治癒が可能です。

ただし、再発の発見に遅れた場合には転移が広がる恐れもあることから、治療後、少なくとも5年間は定期的な検査(診察、腫瘍マーカー測定、画像検査など)が必要となります。特に最初の2年間は再発リスクがやや高いため、より頻繁な検査が行われます。

なお、精巣癌の直接的な再発原因は不明ですが、精巣癌に限らず一部の癌は免疫力の低下や不健康な生活習慣、術後の残存癌などを要因として再発することがあります。また、喫煙や過度の飲酒は、様々な癌のリスク要因とされており、精巣癌においても避けるべきと考えられます。

これら要因のうち、術後の残存癌以外については、患者自身の努力や心構えでリスクを低減できる可能性のあるものばかりです。再発リスクを抑えるため、医師の指示にしたがった健康的な日常を維持することが大切です。

再発の兆候と症状

精巣癌の再発の兆候として、原因不明の疲労の感じやすさや下腹部の鈍痛、腰痛などを自覚することもありますが、多くの場合、再発の兆候を自分で知るきっかけはありません。転移部位によっては、首や足の付け根のリンパ節の腫れ、咳や息切れ(肺転移)、腹痛や背部痛(後腹膜リンパ節転移)などが現れることもあります。

治療後最初の数年間は再発リスクが高いとされているため、再発しても早期治療で対処できるよう、定期的かつ頻繁に検査を受けることが極めて重要です。

なお、原発か再発かを問わず、精巣癌を生じた場合、病巣のあるほうが大きくなったりしこりを生じたりすることがあります。治療後も、残った側の精巣の状態に注意し、入浴時などに自身の精巣を確認し、気になる点があれば速やかに医師へ相談するようにしましょう。

再発予防のための生活習慣

精巣癌の再発を確実に予防する方法は確立されていませんが、全ての癌に共通する一般的な再発予防のための生活習慣があります。以下のポイントをよく理解し、可能な限り健康的な生活を心がけましょう。

禁煙・禁酒

喫煙や過度の飲酒は、多くの癌の発症・再発に関与していることが分かっています。全身の健康維持のためにも、禁煙や過度な飲酒を避けることは必須と心得たほうが良いでしょう。

自らの意志で禁煙や禁酒ができない場合には、医療機関の禁煙外来や専門機関に相談してみましょう。

食生活の見直し

肥満もやせ過ぎも、癌の発症リスクを高める可能性があると言われています。過食や極端なダイエットなどを避け、バランスの取れた食事と適正体重の維持を心がけましょう。

特定の食品が精巣癌の再発を予防するという科学的根拠はありませんが、野菜や果物を多く摂り、塩分を減らしたメニューを意識することなどは、健康維持全般に良いとされています。

適度な運動

身体活動量の多い人ほど一部の癌のリスクが低い、という報告があります。極端に身体へ負荷を与える必要はありませんが、健康維持のため、常識的に「適度」と考えられる程度の身体活動習慣を持つことが良いでしょう。

もとより、適度な身体活動は心疾患リスクも低減させます。癌を含めた全身の健康維持のため、日々適切に体を動かすことは大切です。

精巣癌は、再発を早期発見できれば高い確率で治癒する可能性の高いと考えられています。上記の生活習慣をキープするとともに、医師の指示にしたがって必ず定期的な検査を受診するようにしましょう。

再発が疑われた場合の対応

精巣癌の治療は、まず癌のある側の精巣を摘出する手術(高位精巣摘除術)から始まります。これは診断を確定するためにも不可欠です。その後、摘出した精巣の病理検査を行い、精巣癌であるか否か、また精巣癌であった場合には組織型(大きく「セミノーマ」と「非セミノーマ」に分類)を確定させ、病期(ステージ)やリスク分類に応じて治療方針を決定します。
再発が疑われた場合も、画像検査や腫瘍マーカー測定などで診断し、組織型や転移の部位、範囲に応じて治療を行います。多くの場合、化学療法が中心となります。

セミノーマ…ステージⅠで再発した場合や、ステージⅡ以上の場合、主に化学療法(シスプラチンを含む多剤併用療法、例えばBEP療法など)が行われます。放射線治療が有効な場合もありますが、近年は化学療法の有効性が高いため、適応は限定的になっています。

非セミノーマ…再発した場合やステージⅡ以上の場合、化学療法(BEP療法など)が第一選択となります。化学療法後に腫瘍が残存した場合には、手術(後腹膜リンパ節郭清術など)が検討されることもあります。非セミノーマは放射線治療の効果がほとんど認められません。
いずれのタイプ、どのステージであっても、精巣癌の化学療法は高い効果が期待できます。

再発後の生活と支援

精巣癌が再発しても、多くの場合は治癒を目指すことが可能です。ただし、再び治療を受けることや、再発の発見が遅れて遠隔転移が認められた場合には、たとえ治癒を目指すことが可能な状態だったとしても、患者の精神的な負担は大きいものとなるでしょう。改めて治療を進めるとともに、少しでも患者本人の精神的な安定を図るため、生活の質(QOL)の維持も検討したほうが良いでしょう。
治療による副作用(倦怠感、吐き気、脱毛、聴力低下、しびれなど)への対処や、妊よう性(妊娠させる力)への影響も重要な問題です。特に若年者に多いがんであるため、治療開始前に精子凍結保存について説明を受け、検討することが推奨されます。

生活の質(QOL)の維持を図る主な方法としては、専門家(臨床心理士など)のカウンセリングの受診、がん相談支援センターや支援グループ(ピアサポートなど)への相談、各種のサークル活動などがあります。気分転換として、家族で旅行に出かけることも生活の質(QOL)を維持するための有効な方法の一つです。

患者の性格や日頃のライフスタイル等も考慮しながら、周囲は本人に寄り添ったサポートを行いましょう。

まとめ

精巣癌の罹患者は、日本人男性10万人あたり1~2人ほどと比較的まれですが、一方で、15~35歳の男性においては最も発症率の高い固形がんの一つです。働き盛りの若い男性の間において、精巣癌は決して珍しい疾患ではないことも理解しておきましょう。

精巣癌の初期段階において自覚症状はほとんどありませんが、片方の精巣が大きくなっていたり、硬いしこりが確認されたりした場合には、恥ずかしがらず泌尿器科を受診することが大切。受診の結果、仮に精巣癌と診断されたとしても、早期に治療を受けることで高い確率で治癒する可能性が高まります。

また、仮に再発したとしても、精巣癌の再発は早期に発見し適切な治療を行えば高い確率で治癒します。

極度に恐れず、気になる症状がある場合や、リスク因子のある方は、定期的な自己チェックや必要に応じて医療機関への相談を心がけることが大切です。

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