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掲載している治療法は保険適用外の自由診療も含まれます。自由診療は全額自己負担となります。症状・治療法・クリニックにより、費用や治療回数・期間は変動しますので、詳しくは直接クリニックへご相談ください。
また、副作用や治療によるリスクなども診療方法によって異なりますので、不安な点については、各クリニックの医師に直接確認・相談してから治療を検討することをおすすめします。
参照元:全国がんセンター協議会(全がん協加盟施設の生存率協同調査)/全がん協生存率
膵臓癌は消化器系の臓器や重要な動脈やリンパ管に囲まれているため、血液の流れにのる血行性転移で肝臓や骨に転移しやすい傾向があります。癌が小さいうちから周辺の臓器に広がりやすいのが特徴です。
また腹腔内に種を蒔いたようになって広がる腹膜播種も多いとされています。
膵臓には外分泌機能(膵液を生成する)と内分泌機能(ホルモンを生成する)の2つの機能があります。
外分泌機能にて作られた膵液は膵管という管を通って運ばれます。膵臓癌はこの膵管に発生した癌の事をいいます。内分泌組織にも癌が発生する事がありますが、その場合は膵臓癌とは違った名称で呼ばれます。
膵臓癌は自覚症状がなく、進行のスピードが速いため他の癌と比べても手強いという特徴があります。
膵臓癌は初期の段階では自覚症状はほとんどありません。進行してくると、腹痛、背中や腰の痛み、食欲不振、腹部膨満感、体重減少、黄疸といった症状が現れます。その他糖尿病を発症する事もあります。
膵臓癌は進行のスピードが速く、自覚症状も乏しい事から再発が見つかった時には他の部位へ転移している事が非常に多いです。
膵臓癌の治療には、外科手術、薬物療法、放射線治療があり、がんの進行度や切除の可否、患者の体力や希望を考慮して治療方針が決定されます。また、近年では免疫チェックポイント阻害薬や遺伝子変異に基づく分子標的薬の適応も一部で広がっており、再発や進行例に対しては個別化医療が検討されることもあります。
いずれの治療を選択する場合でも、まずは十分な画像検査・病理診断に基づいて、がんのステージ分類(切除可能/切除可能境界/切除不能)を明確にすることが重要です。複数の治療法を併用した集学的治療が行われることも少なくありません。
膵臓癌の患者において、外科手術は、がんが「切除可能」と診断された場合に根治を目指して実施される治療法です。切除可能な膵癌とは、がんが局所にとどまり、主要な血管を巻き込んでいない、またはごく一部に接しているが切除・再建可能と判断されたケースを指します。
一方、膵臓癌が周囲の血管に広く接している「切除可能境界」や、転移がないが血管浸潤が高度な「局所進行切除不能膵癌」の場合には、まず化学療法や化学放射線療法を行い、腫瘍の縮小や病勢の安定を得た上で手術を再評価する方法が選択されます。
膵臓癌の外科治療としては、「幽門輪温存膵頭十二指腸切除術」「膵体尾部切除術」「膵全摘術」などが行われます。術後は補助化学療法によって再発リスクを抑えることも重要です。
癌細胞が膵頭部を中心に生じている場合、膵頭部だけでなく十二指腸や胆管、胆嚢、周辺リンパ節なども含めて切除が行われます。胃の一部または全部を残すかどうかによって、PPPD(幽門輪温存)またはSSPPD(亜全胃温存)と術式が分かれます。
従来は胃の2/3を切除する膵頭十二指腸切除術(PD)が一般的でしたが、近年では術後の栄養状態や生活の質(QOL)に配慮し、可能な限り胃を温存する術式が選ばれる傾向にあります。
これまでは、胃の2/3の切除を伴う膵頭十二指腸切除術(PD)が広く行われていました。最近では、できるだけ切除する範囲を少なくする、胃のすべてを残すPPPDや胃の大部分を残すSSPPDに変わりつつあります。
必要な臓器や組織を切除した後は、残存膵と小腸をつなぐ再建手術が行われ、さらに胆管や胃の再建も同時に実施されます。再建経路の設計によって術後の消化機能や胆汁排出に影響が出ることもあるため、経験豊富な外科チームによる手技が求められます。
膵臓の体部および尾部に癌がある場合、それらの部位を切除する術式です。通常は脾臓(ひぞう)も一緒に摘出します。脾臓を摘出する理由は、膵尾部と脾臓が血管で密接につながっており、がんの取り残しを避けるためです。
膵頭部とは異なり、消化管の再建は不要であるため、手術の再建操作は比較的少ないのが特徴です。ただし、脾臓の摘出により、免疫力が一時的に低下するリスクがあり、肺炎球菌やインフルエンザ菌などへの感染予防としてワクチン接種を行うことが推奨されます。
癌が膵臓全体に広がっている場合や、複数の部位に病変がある場合には、膵臓をすべて摘出する膵全摘術が行われます。ただし、膵臓の機能(内分泌・外分泌)をすべて失うため、術後には糖尿病管理や消化酵素補充療法が必要になります。
膵全摘術後は、インスリン分泌が完全に失われるため、外部からのインスリン注射が生涯必要になります。また、膵液に含まれる消化酵素も失われるため、脂肪やたんぱく質の消化が困難になり、下痢や体重減少、脂肪便などが見られることがあります。これらに対しては、酵素補充薬の内服で対応します。
栄養指導や自己血糖管理のサポートなど、多職種による継続的なケアが重要とされます。
一般的に切除範囲が大きかったり、再建手術の内容が複雑であったりする場合は、術後の合併症リスクが高くなります。特に膵頭十二指腸切除術では、再建部位(膵・胆・胃などの吻合部)からの漏れ(膵液瘻・胆汁瘻)が重要な合併症であり、感染や出血、腹腔内膿瘍の原因になることがあります。
また、術後に胃の排出機能が一時的に低下し、食欲不振や胃の不快感、嘔吐などを生じる「遅延型胃排出障害」も起こることがあります。これらの症状は一過性であることが多いものの、栄養管理や点滴治療が必要になるケースもあります。
膵体尾部切除術で脾臓を摘出した場合は、免疫機能の低下により感染症(特に肺炎球菌など)のリスクが上昇するため、術前または術後にワクチン接種が推奨されます。
膵全摘術を行った場合は、糖尿病や脂肪吸収障害などの代謝性合併症にも注意が必要です。手術後はチーム医療のもとで、栄養管理・血糖管理・感染予防を継続的に行うことが重要です。
膵臓癌では、放射線治療は根治を目指す化学放射線療法として、また、症状の軽減を目的とした緩和照射として行われることがあります。いずれもがんの状態や全身状態、切除の可否などに応じて検討されます。
化学療法(抗がん剤治療)と放射線照射を併用する治療法で、局所進行膵癌に対する標準治療のひとつとされています。特に、切除可能境界膵癌や切除不能局所進行膵癌において、がんの制御や将来的な切除可能性を高める目的で用いられます。
用いられる抗がん剤には、主にゲムシタビンやフルオロウラシル(5-FU)などがあり、患者の状態によって選択されます。副作用としては、食欲不振・下痢・倦怠感・嘔気などが報告されており、治療中は定期的なモニタリングが重要です。
膵臓癌が進行し、骨や神経に転移している場合や、局所で神経や消化管などを圧迫して症状を引き起こしている場合、痛みや胆道閉塞、出血などの症状を緩和するために放射線照射が行われることがあります。
緩和的照射は根治を目的とするものではなく、QOL(生活の質)を改善するための治療です。照射回数や線量は症状の重さに応じて調整され、短期間で終了するケースもあります。
膵臓癌では、病期や切除の可否に応じて、細胞障害性抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などを組み合わせた薬物療法が行われます。薬剤の選択は、がんの進行度、全身状態、がん遺伝子の検査結果などを総合的に評価して決定されます。
化学療法は単独で行われる場合のほか、手術前の「術前補助化学療法(ネオアジュバント療法)」や、手術後の「術後補助化学療法」としても行われ、再発リスクの低下や長期生存率の向上を目指します。
切除可能な膵臓癌では、手術の前後に化学療法を組み合わせることで、術後の再発リスクを下げ、生存率を高める効果が認められています。
術前補助化学療法でよく使用される薬剤には、ゲムシタビン+S-1(GS療法)やFOLFIRINOX療法などがあります。術後補助化学療法としては、S-1(ティーエスワン)単剤療法が標準的に用いられています。
術後補助化学療法には、S-1が標準療法として推奨されています。また、術前補助化学療法にはFOLFIRINOX療法やゲムシタビン+S-1併用療法などが使用されることがあります。
手術が困難な膵臓癌患者や再発癌に対しては、延命や症状の緩和を目的とした化学療法・薬物療法が選択されます。使用する治療法は、全身状態や年齢、副作用の許容度に応じて決定されます。
2025年現在、手術不能例の一次治療としては以下のような治療が推奨されています。
● FOLFIRINOX療法(5-FU+レボホリナート+イリノテカン+オキサリプラチン)
● ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法
● S-1単剤療法(全身状態がやや不良な場合)
FOLFIRINOX療法は高い治療効果が期待されますが、副作用が強く出ることもあるため、比較的若くて体力のある患者に適しています。一方、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法は、効果と副作用のバランスがとれており、多くの施設で標準治療として実施されています。
いずれの治療も効果の持続には個人差があるため、治療中は定期的な画像検査や血液検査を行い、進行の有無を評価しながら継続の可否を判断します。
特定の化学療法で効果が期待できなかったり、治療中に癌が進行・再発した場合は、別の薬剤による二次治療・三次治療へと移行することがあります。また、がん遺伝子検査で特定の遺伝子異常が確認された場合には、それに対応した分子標的薬や免疫療法が選択されることもあります。
● ペムブロリズマブ(キイトルーダ)※1(免疫チェックポイント阻害薬)
● オラパリブ(リムパーザ)※2(PARP阻害薬)
● エヌトレクチニブ(ロズリートレク)※3(NTRK融合遺伝子陽性が対象)
※1:MSI-High(高頻度マイクロサテライト不安定性)陽性の場合に使用されます。
※2:BRCA1/2遺伝子変異を有する膵癌に対する維持療法として使用されます。
※3:NTRK融合遺伝子陽性の固形癌に対するがん種横断的治療として承認されています。
これらの薬剤は、がん遺伝子パネル検査などで適応が確認された場合に使用されますが、すべての患者に有効というわけではありません。使用にあたっては専門医のもとで十分な説明を受け、メリットとリスクを理解したうえで治療を検討する必要があります。
化学療法・薬物療法の一種である免疫療法は、患者自身の免疫システムを活性化させて癌細胞を攻撃する治療法です。ただし、2025年現在、膵臓癌において有効性が証明され、保険適用されている免疫療法は限られています。
現在、膵臓がんに対して科学的に有効性が確認されている免疫療法は、MSI-High(高頻度マイクロサテライト不安定性)陽性の症例に対するペムブロリズマブ(キイトルーダ)のみです。
その他の免疫療法(ワクチン療法や樹状細胞療法など)は研究段階であり、標準治療としての効果は確立していません。
免疫療法の適応は、がん遺伝子検査によってMSI-Highが確認された場合に限られ、該当しない患者には治療効果が期待できません。したがって、免疫療法を検討する際は、事前に遺伝子検査を受け、対象となるかどうかを確認することが前提となります。
治療を受ける際は、保険診療か臨床試験か、自費診療かによって対応が異なるため、主治医とよく相談しながら慎重に選択することが大切です。
膵臓癌を予防するには生活習慣を見直す事が大切です。食事では脂質や糖質を過剰に摂取にすると膵臓癌のリスクが高まるといわれています。またアルコールや喫煙も膵臓癌のリスクを高めるため注意が必要です。
再発予防には術後補助療法が有効で、薬物治療や放射線治療を行う事で残っている可能性のある癌細胞に対して治療をする事は再発のリスクを大幅に減らす事ができます。
癌が再発した場合は、癌治療専門病院へ行き、早めに適切な治療を行う事が重要です。
ここではステージごとの膵臓癌の状態について解説します。
0期 | すい臓がんが膵管の上皮内に留まっている(非浸潤癌)状態。 |
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Ⅰa期 | 癌細胞が膵管上皮を超えて広がっている(浸潤癌)が、膵臓内に留まっている状態。腫瘍の大きさは2cm以下。 |
Ⅰb期 | 膵臓内に留まっている浸潤癌で、大きさが2cm以上。 |
Ⅱa期 | 癌が膵臓の外にまで進展しているが、腹腔動脈や上腸間膜動脈にまでは至っていない状態。 |
Ⅱb期 | 癌の大きさには関係なく、がんがリンパ節へ転移している状態。 |
Ⅲ期 | 癌の大きさやリンパ節への転移の有無に関わりなく、癌が腹腔動脈、上腸間膜動脈、総肝動脈にまで移転している状態。 |
Ⅳ期 | 癌が離れた臓器にまで移転している状態。 |
膵臓癌に限らず、がんの進行度を示すステージは「TNM」分類法によって表されます。
T因子は癌の大きさや広がりを指します。
N因子はリンパ節への転移を指します。
M因子は離れているその他臓器への転移を指しています。
ただし同じTNM分類でも、日本膵臓学会の定める「膵臓取扱規約」と国際規約である「UICC分類」で多少分類の仕方に違いがあります。日本で膵臓癌を扱う際には「膵臓取扱規約」で記録するのが一般的であるため、このページでもこちらを「ステージ分類」としてご紹介しています。
腫瘍の切除が可能であるため、手術療法により患部を摘出し、補助療法で再発を防ぎます。
癌の広がりや浸潤程度によって、切除可能な場合と、遠隔転移は見られないものの癌が膵臓の主要な血管にまで達している「切除可能境界」の場合とがあります。切除可能と判断されれば0~Ⅰ期と同様の治療をとることができますが、切除可能境界であれば手術だけでは癌が残ってしまう可能性が高いため、放射線療法や化学療法(薬物療法)と組み合わせて行なわれます。
切除可能境界にある癌であれば、Ⅱ期と同様の治療法がとられますが、切除不能と判断された場合には、放射線療法か化学療法のどちらかを選択します。
切除不能であり局所療法である放射線療法も不可と判断されるため、化学療法で進行を遅らせます。
また、膵臓癌の場合、浸潤のために胆管閉塞が併発することがあります。そのような場合には人工管を消化管に留置する「ステント療法」や、手術により消化管をつなぐ「バイパス療法」が実施されます。