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そもそも白血病とは血液の癌ですから、血液に乗って癌細胞が体中を駆け巡っている状態であり、最初から転移癌であると言えます。
しかしここであえて白血病の「再発」と「転移」を表現するとすれば、抗がん剤治療による効果がなくなって血液中の癌細胞が増殖した場合が「再発」、血液中の癌細胞が浸潤した状態が「転移」と言えるかもしれません。
本来、血液細胞は骨髄や抹消血中にしか存在しませんが、抗がん剤が効き目を失い、癌細胞が血液中で増え続けると飽和状態となり、いわば「押し出される」ようにしてリンパ節や神経に浸潤するのです。
例えば急性白血病の場合、転移あるいは再発は完全寛解(骨髄中の癌細胞の割合を5%以下に減らすこと)あとの3~5年後に起こる場合が多いとされています。
私たちの血液は骨の中心にある骨髄でつくられます。
骨髄中に存在する「造血幹細胞」は、第一段階として「骨髄系幹細胞」と「リンパ系幹細胞」の2種類に分化し、「骨髄系幹細胞」はそこからさらに赤血球、血小板、白血球の構成要素の1つである骨髄芽球へと、また「リンパ系幹細胞」は白血球のもう1つの構成要素であるリンパ球へと分化していきます。
このうち白血球を構成するための分化の過程で細胞分裂に異変が起こり、細胞が異常に増殖するのが「白血病」というわけです。
骨髄芽球からの分化において異常増殖が起こる場合を「骨髄性白血病」と呼び、リンパ系幹細胞側からの分化において異常増殖が起こる場合を「リンパ性白血病」と呼びます。さらに白血病は急激に進行する「急性」と緩やかに進行する「慢性」とにも区分されるため、「急性骨髄性白血病」「慢性骨髄性白血病」「急性リンパ性白血病」「慢性リンパ性白血病」の合計4種類が存在することになります。
「急性骨髄性白血病」は、白血球の製造途中である骨髄芽球までは分化するものの、その先の白血球構成細胞である「顆粒球」へと分化できない状態です。その結果、骨髄芽球ばかりが溜まって「異常増殖」となるわけです。成熟できずに溜まった骨髄芽球は癌細胞となり、放っておくと無制限に増え続けて短期間で命を落とします。
一方「慢性骨髄性白血病」は骨髄芽球からの分化に異常はみられませんが、そもそも骨髄芽球をつくる増殖機能に異常があるため、骨髄芽球が増えてしまいます。従って急性骨髄性白血病の場合は未成熟の骨髄芽球ばかりが見られますが、慢性骨髄性白血病の場合は成熟した顆粒球も多く見られます。慢性骨髄性白血病も放置しておくといずれ死に至りますが、症状のない慢性期から移行期、急性転換期まで3~5年ほどかけて緩やかに進行していく点が急性骨髄性白血病との違いです。
「急性リンパ性白血病」は、リンパ系幹細胞から白血球の構成要素である「B細胞」「T細胞」「NK細胞」へと分化する際に異常が起こり、未熟なリンパ芽球ばかりが増殖してしまう疾患です。「急性」の名の通り、突然症状が表れてはやい速度で症状が進行していきます。
対する「慢性リンパ性白血病」は、同じくリンパ球系細胞の増殖異常なのですが、急性との大きな違いは成熟したリンパ球系、その中でもとくにB細胞が増殖している状態です。慢性リンパ性白血病はリンパ性腫瘍の中では低悪性度とされており、発症から10年以上生存している例もあれば2~3年で死亡する例もあり、人によってさまざまです。
白血病の症状には、癌細胞の増加によって造血機能が正常に働かない、つまり正常な血液細胞がつくられないために起こる症状と、癌細胞が「転移」つまり骨髄などの他の臓器に浸潤することで起こる症状とがあります。
また一般的に、慢性白血病は比較的初期症状に乏しく健康診断で白血球数の増加が見られるなどして偶然発見されるケースがほとんどです。これは未成熟の芽球細胞ばかりが急激に増えてしまう急性のものとは異なり、進行がゆっくりであり、しかも増殖する癌細胞には成熟した白血球細胞も含まれているため、ある程度正常な血液と同じ働きができるからと考えられます。
さらに骨髄性とリンパ性とで比べた場合に、リンパ性のもののほうが中枢神経に浸潤しやすく、したがって嘔吐や頭痛、精神症状などの中枢神経に係る症状が出やすいとされています。
他の臓器に発生する癌細胞とは異なり、白血病は血液中に存在し血流にのって体中を巡ることができるため、外科手術で患部を切除するという治療法を選択することができません。
そのため、化学療法により白血病細胞を血液中の5%以下にまで減少させる「寛解導入療法」という治療法が採られる場合がほとんどなのですが、逆に言えば完全寛解が成功したとしても血液中に5%は白血病細胞が残っていることになります。これを「微小残存病変」と呼びますが、これが再び増殖すれば、白血病が「再発」したということになるわけです。
さまざまな部位の癌の中でもとくに白血病は癌細胞を完全に取り除くことが難しい、これが白血病の完治を難しくしている原因です。とは言え、近年になってインターフェロン療法や分子標的療法、造血幹細胞移植などの治療法が進歩し、白血病の長期生存率が上昇傾向にあるという明るいニュースもあります。
治療後は、通常様子を見つつ1週間~2週間、その後順調に回復している場合にはさらに1ヶ月~2ヶ月と通院間隔を伸ばしていきます。それでも常に3~6ヶ月ごとに再発がないかを定期検査する必要があるでしょう。
白血病の場合、再発予防以上に気を付けたいのが感染症です。免疫力が極端に低下してしまっているため、ちょっとしたことですぐに感染症にかかって重篤な状態になってしまう危険性があります。通院の際には体を冷やさないよう気を付け、マスク着用や手洗いうがいを心がけましょう。
散歩など軽い運動や家事をしながら回復に努めますが、疲れを感じたなら横になり、気分や体力が回復するまで安静にしておく必要があります。
白血病には他の癌のような「ステージ(病期)」という概念はないのですが、治療方針を決定するうえでの指標となる「段階」はある程度設けられています。
慢性期 | 白血球数と血小板数が増加しているものの、白血球の分化は正常であるため、未熟な骨髄芽球は全体の10%未満である状態です。 |
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移行期 | 骨髄芽球の分化能力が失われ、血液中の未熟な芽球の割合が増加します。つまり白血病細胞が増殖している状態であるため、薬が効きにくくなり病気の進行が加速します。 |
急性期 | 骨髄芽球の分化能力が失われ、血液中の未熟な芽球の割合が増加します。つまり白血病細胞が増殖し血液中の骨髄芽球は全体の20%以上になっている状態です。その一方で正常に機能している血液細胞が激減するため、貧血や出血、高熱などの症状が強くなります。 |
未治療期 | 白血病細胞が発見されたばかりの状態です。 |
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寛解期 | 化学療法により白血球数が正常レベルになった状態です。検査可能な範囲では白血病細胞が消失しています。 |
再発期 | 完全寛解(骨髄中の癌細胞の割合を5%以下に減らすこと)したものの、白血病細胞が再度表れた状態です。再発箇所として多いのは骨髄です。 |
不応性 | 完全寛解が不可能な状態です。 |
0期 | リンパ球の増加のみが見られる状態です。 |
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Ⅰ期 | リンパ球の増加と共にリンパ節の腫脹が見られる状態です。 |
Ⅱ期 | リンパ球の増加及び脾腫あるいは肝腫大、リンパ節腫脹が見られる状態です。 |
Ⅲ期 | 貧血併発リンパ球の増加やリンパ節の腫脹、脾腫、肝腫大が見られる状態です。 |
Ⅳ期 | 血小板減少併発リンパ球増加や貧血、リンパ節腫脹、脾腫、肝腫大が見られる状態です。 |
抗がん剤を用いた寛解導入療法により、骨髄中の白血病細胞を5%以下にすることを目標とします。
これまで行ってきた寛解導入療法では効果が期待できないため、異なる化学療法や造血幹細胞移植といった治療法が選択されます。
白血病細胞数をコントロールすることを目標とした化学療法や、同種造血幹細胞移植が検討されます。
白血病に対する治療は一般的に抗がん剤を投与する化学療法(薬物療法)が中心とされますが、その他にも患者の状態や症状、条件によって移植治療(造血幹細胞移植)が検討されることもあります。
また、化学療法でも治療の時期やタイミングによってプランが異なるため、まずは主治医と話し合ってしっかりと治療方針を策定することが必要です。
白血病の治療において、抗がん剤を活用する化学療法(薬物療法)は大きな意味を持ちます。
また、白血病治療の化学療法には初期治療として行われるものと、その後に寛解を維持する目的で行われるものがあり、それぞれに特徴があります。
初期治療として、複数の抗がん剤を併用する治療法(多剤併用療法)です。使用される抗がん剤はおよそ5種類程度とされており、適切な多剤併用療法によって白血病の完全寛解が期待できると認められています。
また、若年層の患者に対しては、小児白血病の治療に用いられる抗がん剤セットを利用しつつ、一部の抗がん剤を増量する形で治療が行われます。ただし、患者の持っている染色体の種類によって薬剤が指定されるため、通院治療でなく入院を伴った治療が必要になることもあるでしょう。
使用する薬剤は、ビンクリスチン、ダウノルビシン、シクロホスファミド、プレドニゾロン、L-アスパラギナーゼなどの5種類程度で、多剤併用療法が一般的です。
引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/ALL/treatment.html)
寛解導入療法が成功して症状が落ち着いたとしても、患者の体内には白血病の細胞が残っており、治療を継続しなければ白血病が再燃・再発する可能性が高まります。そのため、寛解後も状態を保つためには、白血病細胞を減少させるための地固め療法や、減少した状態を保つための維持療法が必要です。
寛解導入療法の後、さらに白血病の細胞を減少させる目的で行う治療です。
使用する薬剤としては寛解導入療法で用いた抗がん剤に、代謝拮抗剤と呼ばれる薬剤を加えて、多剤併用療法のプランが構築されます。また、治療には入院が必要であり、数ヶ月間の期間を要します。
寛解導入療法で用いた薬剤の一部にメトトレキサートやシタラビンなどの代謝拮抗剤と呼ばれる種類の抗がん剤を組み合わせて、入院して数カ月間治療を行います。地固め療法中は中枢神経系への浸潤の予防のため、抗がん剤(メトトレキサート、シタラビン、ステロイド)の髄腔内への注射を行うことが一般的です。
引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/ALL/treatment.html)
地固め療法によって白血病の細胞を減少させられたとしても、再発を防ぐためにはさらにその状態を維持して、白血病細胞の根絶を目指さなければなりません。
維持療法に用いられる抗がん剤は通常、内服薬となっており、通院による治療継続が可能です。また副作用の症状も比較的軽度とされています。
ただし、治療には長い期間を要することも特徴で、およそ1~2年間は維持療法を続けることが必要とされています。その後、改めて患者の状態を検査して、寛解状態が維持されていると認められれば維持療法を終了するという流れです。
脳や脊髄といった中枢神経には白血病細胞の浸潤リスクがある反面、中枢神経には内服や点滴による投与の薬剤効果が現れにくいといった問題があります。そのため、地固め療法を行う際は、中枢神経への浸潤リスクを予防するために中枢神経系へ直接に抗がん剤を投与する「髄腔内注射」が用いられることもポイントです。
分子標的治療は、癌細胞の増殖に関与する分子のみをターゲットとする分子標的薬を用いた治療です。抗がん剤と併用されることが一般的で、内服薬や点滴による投与が採用されます。
特に、予後不良の染色体異常を伴う患者に対して、分子標的治療と抗がん剤治療の併用が有効性を持つと認められています。
使用する薬剤は、イマチニブで、フィラデルフィア染色体がつくりだすBCR-ABLチロシンキナーゼという異常なタンパクの機能を阻止することで白血病細胞を減らす効果があります。ほぼ同じ作用があるダサチニブは再発・難治性の場合に使用可能です。
引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/ALL/treatment.html)
分子標的薬としては様々な薬剤が開発されており、どのような分子標的薬を使用するかは患者の年齢や症状、条件などを考慮して判断しなければなりません。
造血幹細胞は血液を造り出すために必要な細胞であり、薬物療法で白血病の治療が困難な場合、造血幹細胞移植が検討されます。
そもそも白血病は、患者の造血幹細胞が血液細胞へと分化する過程で異常が発生し、健全な血液や細胞が産生されなくなることが問題です。そのため、白血病における造血幹細胞移植では、患者自身の造血幹細胞を利用する自家移植でなく、健康なドナーから採取した造血幹細胞を移植する同種移植が基本となります。
ただし、移植が可能な条件としてHLAが適合するドナーの存在や、ドナーの健康状態といった様々なハードル、加えて患者自身の状態が移植に耐えられることも必要です。
同種造血幹細胞移植には拒絶反応など合併症のリスクもあり、実際に移植治療を行えるかどうかは様々な条件を考慮した上で総合的に判断されています。
同種造血幹細胞移植は、治療に伴う合併症のリスクが高く、またドナーの協力が必要な治療であるため、最終的に実施するかどうかは、患者さんの全身状態や年齢、白血病の状態、ドナーが見つかるかなどから、慎重に検討されます。高齢者や、臓器に障害があり移植前の強力な化学療法が行えない場合は、少し弱めの化学療法のあとに造血幹細胞移植を行うミニ移植が検討されます。
引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/ALL/treatment.html)
白血病の治療においては放射線で癌細胞を減少させる、放射線治療も重要な意味を持ちます。また、同種造血幹細胞移植を行う際にも放射線治療が用いられます。ただし、放射線治療によって患者の肉体にダメージを与えるリスクもあり、どのような治療プランを構築するかは患者によって個々に検討しなければなりません。
そのため、局所再発予防を目的として、縦隔部分に放射線治療が行われることがあります。しかし、縦隔部への放射線照射によって二次がんや心臓への合併症が起こる可能性があるため、化学療法後の放射線治療の適応は、個々の患者さんによって異なります。一般的に、治療前に縦隔に大きな病変があった場合や、化学療法への反応が遅い場合、治療後に病変が残ってしまった場合には、放射線治療の適応を検討します。
引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/ALL/treatment.html)
急性リンパ性白血病は、再発予防のため中枢神経系(脳と脊髄)へ予防的全脳照射を行う場合がありますが、時間が経過して起こる副作用で、白質脳症、認知機能の低下、内分泌異常や髄膜腫などの二次性腫瘍を発症することあり、治療の適応は慎重に検討されます。
引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/ALL/treatment.html)
薬物療法や放射線治療による効果が限定的で、同種造血幹細胞移植のドナーも見つからない場合、患者の生活の質(QOL)を高めるための治療(緩和ケア)へシフトされることもあるでしょう。
QOLを重視した治療では、患者の痛みや苦しみを緩和して、患者だけでなくその生活を支える家族のメンタル面も同時にケアすることが必要です。
緩和ケアは治療を諦めるというものでなく、あくまでも患者が自分らしく生きるための方法を見つけて、患者の思いを尊重するための治療であるということがポイントです。
治療や療養生活を送る患者さんの肉体的、精神的、社会的、経済的、すべてを含めた生活の質を意味します。病気による症状や治療の副作用などによって、患者さんは治療前と同じようには生活できなくなることがあります。QOLは、このような変化の中で患者さんが自分らしく納得のいく生活の質の維持を目指すという考え方です。治療法を選ぶときには、治療効果だけでなくQOLを保てるかどうかを考慮していくことも大切です。
引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/ALL/treatment.html)