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癌治療の在宅緩和ケア(在宅医療)について

がんと診断された時から、緩和ケアは始まります。がんと診断されると、死への恐怖や家族のこと、仕事のこと、すべてが不安になってしまうでしょう。「第二の患者」と言われる家族もその対象です。緩和ケアは特定の場所に限定されません。入院しても通院でも在宅でも、患者さんとご家族が望む場所で受けることが可能です。

それぞれに特徴がありますので、入院や通院だけではない、在宅という選択肢もしっかりご紹介します。

緩和ケアとは

がんという病気は、時に死を連想させ、その治療過程においても大きな苦痛を伴うという不安や恐れの感情を抱かせることがあります。治療法が大きく進化している現在も、発見の遅れや再発など、精神的・身体的苦痛を伴う場面が多いのも事実です。

緩和ケアとは、このように多岐にわたる苦痛を予防し、和らげることで、身体面・機能面・心理面・社会面・スピリチュアルな面から包括的に、患者や家族の生活の質(QOL:クオリティ・オブ・ライフ)を改善させるためのアプローチのことを指します。医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、心理士、リハビリテーション専門職、栄養士など、多職種がチームとなって支援を行います。

がんの症状や治療に伴う副作用などの苦痛を和らげるだけでなく、治療する場、治療法、就労に関することなど、療養生活全般に関わる意思決定の支援も含め、がんと診断された時からケアが始まります。治療と並行して早期から行うことが重要です。

緩和ケアは自宅でも受けられる?

緩和ケアと言うと、緩和ケア病棟やホスピスを思い浮かべる方も多いかと思いますが、現在では在宅医療が普及し、有力な選択肢として定着しつつあります。病院で行われている緩和ケアの多くを自宅でも受けることが可能になっています。

家族の負担への心配や、経済的理由など、療養の場を選択することに迷いや不安が出てくるのは自然なことです。家族との時間、仕事、治療など、優先順位は人それぞれ。生活の質が担保されるよう、入院や通院だけではなく、在宅という選択肢を加えてみてください。

在宅での緩和ケア

常時医師や看護師がいるという環境ではなくなりますが、在宅での緩和ケアは、訪問診療や訪問看護などを利用しながら、ご自身の生活のペースに合わせて行うことができます。必要に応じてオンライン診療などが活用される場合もあります。在宅医療を選択したからといって、入院や通院が不可能になるわけではありません。体調の変化に応じて、一時的な入院や通院を組み合わせることも可能です。住み慣れたリラックスできる自宅で、家族とともにいられる安心を感じながら療養したい、仕事の継続や、経済的負担を減らしたいなどの理由で、在宅医療を希望されている方が多くいらっしゃいます。また、家族への心理的なサポートや介護指導なども在宅緩和ケアの重要な要素です。

通院形式での緩和ケア

病院での治療や緩和ケアを受けたいが入院はしたくない、仕事を続けたい、経済的負担を抑えたいなどの理由で、通院による緩和ケアが選択されています。

通院形式の緩和ケアには治療を行っている病院の緩和ケア外来や担当科で緩和ケアを受ける方法と、他の病院の緩和ケア外来に通院する方法があります。かかりつけ医と連携して緩和ケアが行われることもあります。治療を受ける診療科のみでは、治療が優先となり緩和ケアを受けることが難しい場合も考えられますが、多くの病院で緩和ケアチームが活動しており、主治医と連携して対応しています。

入院形式での緩和ケア

入院を要する治療法を選択した場合や治療に専念したい場合、症状が強く在宅での対応が難しい場合、あるいは家族に負担をかけたくない、家に戻るのが不安といった場合には、入院しながら緩和ケアを受けることになります。医療スタッフとの関係構築や、他の患者同士の情報交換の場にもなります。緩和ケア病棟だけでなく、一般病棟でも緩和ケアチームが関わり、専門的な緩和ケアを提供しています。

自宅での緩和ケア(在宅医療)を受けるメリット

自宅での緩和ケアを受ける一番のメリットは、「自宅に帰ること自体が痛みの治療」と言われるほど、住み慣れた場所で家族と過ごせる大きな安心感ではないでしょうか。ストレスが低減することで免疫力にも良い影響があると言われています。患者さんやご家族の意向を尊重した、個別性の高い療養生活を送ることが可能です。

症状や痛みの緩和という点では、適切な体制が整えば、病院と同等の質の高い疼痛コントロールが受けられますし、通院にかかる体力的負担も、入院による経済的負担も抑えられます。家族も治療の様子を見られますし、話をする時間も多く取ることができます。近年では、ICT(情報通信技術)を活用した見守りやコミュニケーション支援なども試みられています。

自宅での緩和ケア(在宅医療)を受けるデメリット

病院にいることで得られる安心感は、常に医師や看護師がいること、有事には素早く処置を受けられること、家族に付き添いや介護などの負担がかからないことなどでしょう。

自宅に戻ることで、これらの安心感が不安に変わるかもしれません。特に夜間や緊急時の対応、介護負担の増加は、在宅緩和ケアにおける大きな課題となり得ます。在宅での積極的な治療は内容によっては難しいため、人によっては治療を諦めたとの思いが募るかもしれません。入院していれば起こらない不安が生じてしまうのがデメリットですが、これらの思いや生活を支えるのも緩和ケアの一部です。介護保険サービスなどの社会資源を活用することで負担を軽減できますが、地域によっては医療・介護サービスの量や質に差がある場合もあります。

自宅での緩和ケアでも病院と連携した医療サポートが受けられる

在宅医療に切り替えたからといって、病院から孤立してしまう訳ではありません。

地域の在宅療養支援診療所や病院は、地域の入院が可能な医療機関や24時間対応可能な訪問看護ステーション、地域の介護・福祉事業所との密な連携**(地域包括ケアシステム)が求められており、多くの地域でその体制が構築されています。医師、看護師、薬剤師、ケアマネージャー、ヘルパーなど多職種が情報を共有し、連携して患者さんとご家族を支えます。必要時は入院などの適切な医療サポートが受けられるようなシステムができています。また、病院の地域連携室などが、退院前から在宅療養への移行を支援(入退院支援)しています。体調が悪化した時にはどうするのかといったことは、あらかじめケアチームと確認しておく必要がありますが、確認ができていれば有事の時に慌てずに対応できます。

まとめ

かつては入院や通院をしないと受けられなかった緩和ケアの多くを、今では在宅医療という形で受けることができるようになりました。痛みのコントロールも、適切な体制のもとであれば病院と同等の質で行うことが可能です。療養の選択肢として、家に帰るという選択肢が増え、住み慣れた自宅で家族と過ごしながら療養をすることができるようになったのです。
ですが、家族・治療・仕事・経済的なことなど、何を最優先にするかは人それぞれです。ここまでお伝えしてきたように、療養の場それぞれに特徴がありますので、ご自身とご家族にとって最も良いと思われる選択をしてください。その選択自体も緩和ケアチームが支援します。どのような選択であっても、質の高い緩和ケアを受ける権利があります。

このページの執筆者

佐原正美

看護師に復職して9年になる40代・2児の母。主に救急外来や治療部門に携わってきましたが、友人の乳がん罹患・うつ病発症をきっかけにがんの治療や在宅医療に興味を持ち、退職。現在はクリニックに在籍しながら、がんの早期緩和ケア介入に関する単位取得などの学習を続けつつライター業を兼務。医療案件を主に執筆しています。