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卵巣癌

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また、副作用や治療によるリスクなども診療方法によって異なりますので、不安な点については、各クリニックの医師に直接確認・相談してから治療を検討することをおすすめします。

卵巣癌の生存率

国立がん研究センターがん情報サービスの最新集計(2016~2017年診断例)によると、卵巣癌(上皮性腫瘍)の5年相対生存率は以下の通りです。

(10年相対生存率の全国的な最新データは公表されていません)

参照元:国立研究開発法人国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」(がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計)https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/survival/hospital_based.html

卵巣癌が転移しやすい箇所

卵巣癌はどのような癌か

卵巣癌は卵巣に発生する癌(悪性腫瘍)を指します。近年、卵巣癌の多くは卵管采(卵管の先端)から発生すると考えられており、腹膜に発生する腹膜癌と合わせて「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん」として包括的に扱われます。卵巣癌は初期段階では症状がほとんどないことが多く、日本では年間約1万3千人が新たに診断され(2019年)、約4,800人が亡くなっています(2022年)。

参照元:国立研究開発法人国立がん研究センター がん情報サービス/がん統計 https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/19_ovary.html

卵巣癌にかかりやすい年齢層は40代から増加し始め、ピークは50代~60代とされています。

また、卵巣癌は組織型が非常に多く、上皮性(漿液性癌、粘液性癌、類内膜癌、明細胞癌など)、胚細胞腫瘍、性索間質性腫瘍などに大別されます。最も多いのは上皮性癌です。そのため、癌の疑いのある場合は手術で病変を切り取り、病理組織検査と呼ばれる検査でどのタイプに分類されるのかを診断するのが一般的です。

卵巣癌の主な症状

卵巣癌の初期段階は無症状のことがほとんどです。そのため、症状に気づいたタイミングでは癌が進行していることも多く、早期発見が難しい癌の一つです。

卵巣癌の進行具合によってステージ分類(手術進行期分類、FIGO分類)されており、主に癌の転移による広がりで判断しています。

卵巣癌・卵管癌・腹膜癌の手術進行期分類(FIGO 2014年分類に基づく概要)

卵巣癌は、進行して腫瘍が大きくなると下腹部が出てきたり、腹部膨満感(お腹の張り)、食欲不振、頻尿、便秘などの症状が出たりします。また、お腹に水(腹水)が溜まることで、腹部の膨満感や痛みが現れることもあります。

卵巣癌が再発しやすい理由・しにくい理由

卵巣癌においても、まずは手術によって癌細胞を可能な限り完全に取り除くのが基本的な対応になります。

早期(I期)で癌細胞が完全に取り除かれた場合は、再発の可能性は比較的低いですが、進行期(III期・IV期)で見つかることが多く、その場合は目に見えない微小な癌細胞が腹腔内に残存している可能性が高いため、再発しやすいとされています。

卵巣癌は比較的抗がん剤(化学療法)が効きやすい癌と言われていますが、進行癌では半数以上が再発する可能性があり、初回の治療を行ってから2~3年以内に再発するケースが多いようです。初回化学療法後に再発を抑えるための維持療法(分子標的薬など)が行われることもあります。再発の場合は、薬物療法(化学療法、分子標的療法)が中心となります。

再発を早期に発見し、適切な治療につなげるために、治療後も定期的な診察と検査(内診、腫瘍マーカー、画像検査など)を受けることが重要です。

卵巣癌に用いられる治療法

卵巣癌は患者の年齢や体力(全身状態)、併存疾患、癌の進行期や組織型、遺伝子変異(BRCAなど)の有無、本人の希望に従って治療方針を決定します。

初期治療としては、手術による切除が主たる治療方法ですが、進行癌では手術と薬物療法(化学療法、分子標的療法)を組み合わせた集学的治療が行われます。卵巣癌は他の癌と比べて進行した状態で見つかることが多いため、手術後は化学療法(術後補助化学療法)や維持療法が行われるケースがほとんどです。

卵巣に発生する癌なので、妊娠・出産予定がある方は子どもを産めるかどうかが気になるでしょう。治療によって妊孕性(妊娠する能力)が失われる可能性があります。将来子どもを産みたいと考えている方は、治療開始前に医師と十分に話し合い、妊孕性温存(妊娠の可能性を残すこと)が可能かどうか相談することが重要です。

化学療法、分子標的療法、そして限定的な状況での放射線治療が、手術と並ぶ癌への対抗方法です。

放射線治療は卵巣癌に対しては標準的な治療としてはあまり行われません。再発時の症状緩和(疼痛、出血など)や、脳転移など特定の状況で使われることがあります。

化学療法については、卵巣癌に対しては効果が高い治療方法といわれており、細胞障害性抗がん剤の投薬を用いて治療を行います。標準的にはタキサン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用療法が行われますが、癌の進行期や組織型、患者さんの状態に応じて適切な抗がん剤を選択し、副作用を考慮しながら投薬を行なう流れです。

抗がん剤の副作用としては、骨髄抑制(白血球・赤血球・血小板の減少)、吐き気・嘔吐、脱毛、末梢神経障害(手足のしびれ)、倦怠感などが挙げられます。

分子標的療法では、癌細胞の増殖や血管新生に関わる特定の分子を標的とする薬剤を使用します。血管内皮細胞増殖因子(VEGF)阻害剤(ベバシズマブ)やPARP阻害剤(オラパリブ、ニラパリブなど)が用いられ、化学療法と併用したり、化学療法後の維持療法として使われたりします。近年さまざまな癌に対して応用されている治療法です。

手術(外科治療)

卵巣癌の治療として行われる手術(外科治療)の内容は、癌の進行状況(進行期)や組織型、サイズ、患者の全身状態や年齢、妊孕性温存の希望、術後のライフスタイルなどを総合的に考慮した上で選択されます。また、いずれの手術法を選択する場合でも、原則として初回手術で可能な限り癌を摘出し(完全切除を目指す)、再発リスクを減らすといったことも重要です。

なお、卵巣癌の外科的な一般治療として広く用いられるのは開腹手術です。腹腔鏡下手術も行われますが、早期卵巣癌の一部や、診断目的、二次的な腫瘍減量術など、適応は限られています。進行卵巣癌に対する初回手術としては、開腹手術と比較して有効性を示す十分なデータがまだ少なく、標準治療としては確立されていません。

現時点(2025年)では、卵巣がんの標準的な初回手術は開腹手術です。腹腔鏡下手術は、良性腫瘍や一部の早期がん、経験豊富な施設での二次腫瘍減量術などで考慮されることがありますが、進行がんの初回手術における安全性や根治性についてはまだ開腹手術と同等であるという十分な証拠はありません。

参照元:がん情報サービス|卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/treatment.html)

卵巣癌の治療を目的として手術を選択する場合、将来的に妊娠や出産を計画している人はあらかじめ主治医へその希望を伝えて、妊孕性温存治療(妊娠の可能性を維持する治療)が可能かどうか確認しておくことも重要です。

ベーシックな手術法(根治手術)

基本的な卵巣癌治療の手術(標準術式)においては、両側の卵巣と卵管、子宮、大網が摘出されます。進行期診断のため、腹腔内細胞診(腹水の採取または腹腔内洗浄液の採取)、腹腔内の詳細な観察と生検も行われます。また、周辺臓器への癌転移などが認められる場合、それらについても一緒に摘出することも検討されます。進行度によっては後腹膜リンパ節(骨盤リンパ節・傍大動脈リンパ節)郭清または生検が行われます。

腫瘍減量術(Debulking Surgery)

腫瘍減量術とは、進行卵巣癌で、手術によって癌を全て切除できない(完全切除が困難な)場合において、可能な範囲で癌細胞(腫瘍)を最大限摘出することを目指す治療法です。手術後に残る腫瘍のサイズが小さいほど(特に1cm未満、理想的には肉眼的に残存腫瘍なし)、その後の化学療法の効果が高まり、予後が改善するとされています。

基本的に可能な限り最大限の摘出によって、癌細胞の量を減らすことが重要となります。

また、癌細胞が消化器(大腸・小腸)や横隔膜、脾臓、肝臓表面などへ転移している場合、腸管部分切除・吻合、横隔膜切除・再建、脾臓摘出、腹膜切除などが併用されることもあります。

腹水細胞診と腹膜生検

腹水細胞診とは、腹腔内に溜まった腹水や、腹腔内を生理食塩水で洗った洗浄液を採取し、癌細胞の有無を調べる検査で、癌のステージを判断するために必要な処置とされています。また、腹膜の上に病変らしきもの(播種)が認められた場合、腹膜生検を行って腹膜播種の有無について確認することもポイントです。

癌細胞、あるいは癌を疑われる細胞の一部を切り取って検査する生検は、卵巣癌の状態や治療法を検討する上で重要な手法といえます。

生検: 病変の一部を採って、顕微鏡で詳しく調べる検査です。生検組織診断とも呼ばれます。手術や内視鏡検査などのときに組織を採ったり、体の外から超音波(エコー)検査やX線検査などを行いながら細い針を刺して組織を採ったりします。がんであるかどうか、悪性度はどうかなど、病理医が病変について詳しく調べて診断を行います。

引用元:がん情報サービス|生検(https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/seiken.html)

後腹膜リンパ節郭清と生検

卵巣癌のステージを決定するため、あるいは転移を切除するために、骨盤リンパ節や傍大動脈リンパ節といった後腹膜リンパ節を切除(郭清)したり、腫れているリンパ節を切除(生検)したりすることがあります。採取されたリンパ節は病理検査によってリンパ節転移の有無を判断します。リンパ節郭清を行うかどうかは、癌の進行期や組織型によって判断されます。

妊孕性温存と手術

卵巣癌の治療を目的として両側の卵巣や子宮などを摘出した場合、術後に患者が妊娠したり出産したりすることはできません。ただし、厳格な基準を満たす特定の条件下においては卵巣癌の外科治療と妊孕性温存治療を両立することも可能です。

妊孕性温存が検討される判断基準としては、癌の進行期、組織型、分化度(悪性度)に条件があり、さらに初回手術の適正なプランニングも不可欠です。

通常、妊孕性温存手術としては癌のある側の卵巣・卵管のみを切除し、子宮と反対側の卵巣・卵管は温存します。同時に、進行期を正確に診断するための腹水細胞診、大網切除、腹腔内各所の生検、リンパ節郭清(または生検)なども必要に応じて行われます。

妊孕性温存手術が考慮される主な条件(上皮性癌の場合)は、進行期がIA期またはIC1期(被膜破綻や腹水・洗浄液細胞診陽性がない)で、かつ組織型が悪性度の低いもの(例:高分化~中分化の漿液性癌、類内膜癌G1/G2など)とされています。明細胞癌や低分化癌などは一般的に対象となりません。胚細胞腫瘍や性索間質性腫瘍の一部でも妊孕性温存が可能です。これらの判定には、初回手術における適切な進行期診断が不可欠です。

引用元:がん情報サービス|卵巣がん 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/treatment.html)

加えて、手術の方法の他にも、妊孕性温存手術には以下のような条件が欠かせません。

一般的な標準治療としての手術に比べれば、妊孕性温存手術では再発リスクなどが高まる可能性もあるため、どのような手術や治療のプランを選ぶのか主治医や婦人科腫瘍専門医としっかりと相談し、納得しておくことが大切です。

術後のケアと合併症リスク

開腹手術が一般的とされる卵巣癌の標準治療では、術後に傷跡が痛んだり、感染症、出血、腸閉塞(癒着による)、血栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症)といった合併症のリスクが高まったりといったことも考えなければなりません。

開腹手術の直後に動くことは大変ですが、術後に安静にしすぎている期間が長引くほど合併症リスクが高まるため、鎮痛剤などを併用しながら早期離床(なるべく早く起き上がって動くこと)を目指すこともポイントです。

なお、卵巣を摘出したことによって起こりえる合併症もあります。

更年期障害に似た症状(卵巣欠落症状)

閉経前の患者から左右の卵巣を摘出すると、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急になくなり、更年期障害のような症状(ホットフラッシュ(ほてり、のぼせ)、発汗、動悸、不眠、抑うつ、関節痛、腟乾燥感、性交痛、骨粗しょう症リスクの上昇など)が早期に現れることがあります。

自覚症状としては発汗やほてり、食欲低下、倦怠感など様々なものが挙げられるため、どうしても辛くなれば主治医へ相談するようにしてください。ホルモン補充療法(HRT)などが検討される場合もありますが、癌の種類によっては慎重な判断が必要です。

ほてり、発汗、食欲低下、だるさ、イライラ、頭痛、肩こり、動悸、不眠、腟分泌液の減少、骨粗しょう症、高脂血症などがみられます。これらの症状は時間の経過と共に徐々に軽快していくこともありますが、長期間続くこともあります。日常生活に支障が出るようであれば、担当医に相談してみましょう。

引用元:がん情報サービス|卵巣がん 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/treatment.html)

性機能障害

卵巣癌の手術を行った後でも、膣が残っていれば性交渉は可能です。ただし、手術による肉体的な影響(腟の短縮や硬化)や卵巣欠落症状(腟乾燥、性交痛)、心理的な影響(ボディイメージの変化、不安)から、性交時に痛みを感じたり、性欲がそもそも減退したりといった可能性もあります。パートナーとのコミュニケーションや、潤滑剤の使用、専門家への相談などが助けになることがあります。

リンパ浮腫

骨盤内や傍大動脈領域のリンパ節郭清を行った場合、術後に脚のむくみ(リンパ浮腫)が発生する場合があります。発症予防のための指導(スキンケア、体重管理、適切な運動など)や、発症した場合の専門的な治療(リンパドレナージ、圧迫療法など)が必要です。

放射線治療

卵巣癌の治療では、再発時の疼痛や出血といった症状の緩和を目的として放射線治療を行うことがあります。また、癌細胞が脳に転移している場合、症状緩和や予後の改善を目的として放射線治療を行うこともあります。根治的な治療としての役割は限定的です。

薬物療法

多くの場合、進行した状態で見つかる卵巣癌では、手術を行った後で化学療法を実施することが標準治療です。また、早期(I期・II期)の卵巣癌においても、組織型や分化度(悪性度)などから再発リスクが高いと判断される場合、術後化学療法によって再発リスクを軽減することが推奨されます。

術後化学療法が必要かどうかは、癌のステージや組織型、分化度、遺伝子変異の有無などを確認した上で判断されなければなりません。

一般的に、術後の化学療法が省略できる可能性があるのは、進行期がIA期またはIB期で、かつ分化度がG1(高分化)の場合などに限られます。ただし、明細胞癌や未分化癌などは早期であっても悪性度が高いと考えられ、術後化学療法が推奨されます。

引用元:がん情報サービス|卵巣がん 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/treatment.html)

その他、進行癌で初回手術による完全切除が困難と予想される場合や、患者さんの全身状態が手術に耐えられない場合には、術前化学療法(NAC: Neoadjuvant Chemotherapy)が行われることもあります。術前化学療法によって癌細胞が縮小したり、全身の状態が手術へ耐えられるほど良くなったりすれば、改めて外科治療(IDS: Interval Debulking Surgery)による卵巣癌の摘出を目指します。

術前化学療法を実施するかどうかについても、術後化学療法の場合と同様に卵巣癌の状況を詳細に検査してから判断されることも押さえておきたいポイントです。術前化学療法+IDS+術後化学療法が、初回腫瘍減量術(PDS)+術後化学療法と同等の治療選択肢となる場合があります。

手術で取り切れない腫瘍の大きさが大きいと予想されるほど進行している場合や、合併症がある、高齢である、腹水や胸水がたまっているなどのことから全身状態が悪い場合が当てはまります。術前の化学療法により腫瘍が小さくなり完全切除が可能となったり、全身状態が改善したりした段階で手術を行います。

引用元:がん情報サービス|卵巣がん 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/treatment.html)

化学療法

化学療法は、細胞障害性抗がん剤によって癌細胞を攻撃する治療法です。初回治療では、タキサン製剤(パクリタキセルやドセタキセル)とプラチナ製剤(カルボプラチンやシスプラチン)を一緒に使うTC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)などが標準治療として一般的です。投与経路は主に点滴静脈注射ですが、腹腔内に直接投与する方法(腹腔内化学療法)が検討されることもあります。再発の場合には、初回治療からの期間(プラチナ感受性/抵抗性)や副作用などを考慮して、異なる薬剤が選択されます。

ただし、抗がん剤を用いた化学療法では癌細胞だけでなく正常細胞にまで影響が出るため、副作用が引き起こされることもあります。

タキサン製剤であるパクリタキセルでは、しびれの症状がみられる末梢神経障害が高頻度に起こります。症状が重くなった場合は回復が遅く、後遺症が残ることもあります。また、パクリタキセルの添加剤としてアルコールが含まれているため、お酒に弱い患者さんは、酔ったときのような症状があらわれることがあります。(アルコールを含まない製剤もあります)

引用元:がん情報サービス|卵巣がん 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/treatment.html)

化学療法の副作用では骨髄抑制(白血球減少による感染症リスク、血小板減少による出血リスク、赤血球減少による貧血)、吐き気・嘔吐、食欲不振、脱毛、口内炎、下痢などが起こりやすく、免疫細胞の減少によって感染症リスクが高まるといったことも考えなければなりません。また、プラチナ製剤では腎臓機能障害や聴器毒性、タキサン製剤ではアレルギー反応などが起こる可能性もあります。

分子標的療法

分子標的療法とは、癌細胞の増殖、生存、血管新生などに関わる特定の分子(タンパク質や遺伝子)をターゲットとして、その働きを阻害する薬を使う治療法です。卵巣癌の治療においては化学療法と併用したり、化学療法後の効果を維持するための維持療法として行われたりします。

ベバシズマブ(アバスチン)

血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を標的とする抗体薬です。癌細胞が自身の増殖に必要な栄養や酸素を得るために新しい血管を作る(血管新生)のを阻害します。これにより、癌の増殖を抑える効果が期待されます。初回治療(進行癌)や再発治療において、化学療法と併用されたり、維持療法として単独で用いられたりします。

卵巣癌の分子標的療法で使用される医薬品ですが、一方で高血圧、タンパク尿、出血(鼻出血、歯肉出血など)、血栓塞栓症、消化管穿孔(小腸や大腸に穴が開く)、創傷治癒遅延などの副作用リスクがあることも重要です。

そのため、ベバシズマブを用いた分子標的療法を行う場合、これらの副作用に対応できる医療施設で、治療経験豊富な医師の管理下で行うことが重要です。

PARP阻害剤(オラパリブ:リムパーザ、ニラパリブ:ゼジューラ、ルカパリブ:ルブラカ)

DNA修復に関わる酵素であるPARP(ポリADP-リボースポリメラーゼ)の働きを阻害する薬剤です。特に、BRCA1/2遺伝子変異など、相同組換え修復(HRR)と呼ばれるDNA修復機構に異常がある癌細胞に対して高い効果を示します。HRR機能が低下した癌細胞はPARP阻害剤によってDNAダメージが蓄積し、細胞死に至ります。
初回化学療法後の維持療法として、BRCA遺伝子変異陽性の患者さんや、相同組換え修復欠損(HRD)陽性の患者さん、あるいは化学療法が奏効した患者さん全般に用いられます(薬剤により適応は異なる)。また、プラチナ感受性再発卵巣癌に対する維持療法や、再発後の治療としても用いられます。
主な副作用として、貧血、吐き気、倦怠感、血小板減少、好中球減少などがあります。定期的な血液検査が必要です。

その他の分子標的薬・免疫療法

現時点(2025年)では、卵巣癌に対する免疫チェックポイント阻害薬などの新規薬剤は、標準治療として広く確立されてはいませんが、特定の遺伝子変異(MSI-Highなど)を持つ場合や、臨床試験の枠組みで検討されることがあります。

維持療法

初回化学療法で効果が得られた後、その効果をできるだけ長く維持し、再発を遅らせることを目的として行われる治療です。進行卵巣癌(III期・IV期)の初回治療後や、プラチナ感受性再発後の化学療法後に、ベバシズマブやPARP阻害剤(オラパリブ、ニラパリブ、ルカパリブ)が用いられます。どの薬剤を選択するかは、BRCA遺伝子変異やHRDの有無、初回治療の内容、副作用などを考慮して決定されます。

緩和ケア/支持療法

緩和ケアとは、癌の根治を目的とした治療と並行して行われ、癌による諸症状(痛み、倦怠感、食欲不振、呼吸困難、吐き気など)や、治療に伴う副作用を軽減し、患者さんとご家族の精神的な苦痛や社会的な問題(仕事、経済的なことなど)に対処することで、生活の質(QOL)を維持・向上させるためのケアです。緩和ケアは、癌と診断された時から、治療のどの段階でも受けることができます。

また、癌による直接的な症状や治療による副作用・合併症などを緩和したり、予防したりするための治療を特に支持療法と呼びます(例:制吐剤、鎮痛剤、骨髄抑制に対するG-CSF製剤、貧血に対する輸血やESA製剤など)。

がんになると、体や治療のことだけではなく、仕事のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。

緩和ケアは、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげます。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 卵巣がん・卵管がん 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/treatment.html)

リハビリテーション

手術などで肉体を傷つけたり治療中の安静期間が長引いたりすれば、身体機能(筋力、持久力など)が低下してしまい、日常生活へ復帰するまでにリハビリテーションが必要になることがあります。手術後早期からのリハビリテーションは、合併症予防や早期回復に重要です。また、化学療法中や治療後も、倦怠感の軽減や体力維持のために、無理のない範囲での運動が推奨されます。

リハビリの方法には有酸素運動(ウォーキングなど)や筋力トレーニング、日常動作の練習など様々なものがありますが、具体的な内容や期間は患者の状態や希望を踏まえて、医師や理学療法士、作業療法士などの専門家と相談しながら計画していくことが肝要です。

一般的に、治療中や治療終了後は体を動かす機会が減り、身体機能が低下します。そこで、医師の指示の下、筋力トレーニングや有酸素運動、日常の身体活動などをリハビリテーションとして行うことが大切だと考えられています。日常生活の中でできるトレーニングについて、医師や医療スタッフに確認しましょう。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 卵巣がん・卵管がん 治療(https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/treatment.html)

卵巣癌の発生要因とは?

卵巣癌が発生する明確な原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかのリスク因子が知られています。
主なリスク因子としては、出産歴がないこと、初経年齢が早いこと、閉経年齢が遅いこと、不妊治療歴、子宮内膜症の既往、肥満などが挙げられます。一方、経口避妊薬(ピル)の使用や、妊娠・出産回数が多いことはリスクを低下させると考えられています。
また、遺伝的要因も重要です。

卵巣癌の遺伝的要因

卵巣癌(上皮性癌)の発生に関して、約15~20%は遺伝的要因が関与しているとされています。特に、遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の原因遺伝子である「BRCA1遺伝子」や「BRCA2遺伝子」において、生まれつき病的変異(生殖細胞系列変異)を有する場合、卵巣癌を発症するリスクが著しく高まります(生涯リスク:BRCA1変異保持者で約40-60%、BRCA2変異保持者で約15-25%)。
また、リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌)の原因遺伝子(MLH1, MSH2, MSH6, PMS2など)の変異も、卵巣癌(特に類内膜癌や明細胞癌)のリスクを上昇させます。
これらの遺伝子変異は、遺伝子検査(血液検査など)で調べることができます。卵巣癌と診断された場合、これらの遺伝子変異の有無を調べることが、治療方針の決定(特にPARP阻害薬の使用)や、血縁者の発癌リスク評価、リスク低減策(下記参照)の検討において重要になる場合があります。

卵巣がんの約15~20%は遺伝的要因によるものと考えられています。特に、細胞のがん化を防ぐ働きをするBRCA1遺伝子あるいはBRCA2遺伝子に生まれつき病的変異がある女性では、卵巣がんと乳がんを発症するリスクが高いことがわかっています。また、リンチ症候群と呼ばれる遺伝性の病気でも卵巣がんのリスクが高まります。

しかし、これらの変異があるからといって必ずしもがんになるとは限りません。気になる場合には、遺伝医療の専門家(臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーなど)のいる施設で、遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。施設などの情報については、がん相談支援センターで確認することができます。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 卵巣がん・卵管がん 予防・検診(https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/prevention_screening.html)

遺伝カウンセリングとは?

遺伝カウンセリングとは、遺伝性疾患や、癌を含む遺伝的要因が関わる可能性のある病気について、患者さんやご家族が抱える医学的・心理的・社会的な悩みや不安に対して、遺伝医学の専門家(臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラーなど)が正確な情報提供、遺伝子検査に関する意思決定支援、心理社会的サポートを行う流れです。

特に原因遺伝子が判明しているような癌の場合、遺伝カウンセリングを通じて、ご自身の発癌リスク、遺伝子検査の意味や限界、血縁者への影響、予防策(リスク低減手術など)などを理解し、将来的なプランを考える手助けとなります。

遺伝に関するさまざまな悩みや不安を抱えている人を対象に、専門知識を持つカウンセラーや医師が行う遺伝に関する情報提供、心理面や社会面に対する支援のことです。がんの場合は、遺伝性腫瘍や家族性腫瘍について、遺伝子の変異と病気の発症に関する説明、遺伝子検査受診の判断に関するサポート、心理面や社会面に対するサポートなどを行っています。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 遺伝カウンセリング(https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/geneticcounseling.html)

遺伝子カウンセリングを受けられる施設の情報

遺伝子カウンセリングは遺伝医学の専門家がいる施設(大学病院やがん専門病院など)で受けることができます。対象施設については「がん相談支援センター」で確認することも可能です。日本遺伝カウンセリング学会や日本人類遺伝学会のウェブサイトでも施設情報を検索できます。

(民間の遺伝子検査サービスもありますが、医療機関での検査とは異なり、医学的な判断やカウンセリング体制が不十分な場合があるため注意が必要です。)

「がん相談支援センター」は、全国の「がん診療連携拠点病院」や「小児がん拠点病院」「地域がん診療病院」に設置されている、がんに関するご相談の窓口です。

これらの病院は、全国どこにお住まいでも質の高いがんの医療が受けられるように、厚生労働大臣が指定した施設です。指定された施設は、治療の内容や設備、がんに関する情報提供などについて、一定の基準を満たしています。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 「がん相談支援センター」とは(https://ganjoho.jp/public/institution/consultation/cisc/cisc.html)

卵巣癌の検査方法

現在のところ、卵巣癌を早期に発見するための有効で確立された検診方法はありません。しかし、リスク因子を持つ方や、気になる症状がある場合は、婦人科での診察や検査を受けることが推奨されます。また、BRCA1/2遺伝子変異保持者に対しては、定期的な検査(経腟超音波、腫瘍マーカーCA125など)や、リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)が検討されます。

卵巣がん・卵管がん全般については、現在のところ、有効性が確立された検診方法はなく、特有の予防法も確立されていません。ただし、BRCA1遺伝子あるいはBRCA2遺伝子に病的変異があることがわかった女性に対しては、遺伝医学の専門家のいる、遺伝カウンセリングの体制が整った施設において、リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)を行うことについて検討することもあります。RRSOは卵巣がん・卵管がんの発症リスクを大幅に低下させることが示されています。施設などの情報については、がん相談支援センターで確認することができます。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 卵巣がん・卵管がん 予防・検診(https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/prevention_screening.html)

触診・内診・直腸診

医師が下腹部を触診したり、女性の膣に指を入れて内部(子宮、卵巣、その周辺)を触診(内診)したりして、腫れやしこりの有無、圧痛などを確認します。また、直腸やその周辺に異常がないか、お尻へ指を入れて診察する直腸診も、骨盤内の状態を把握するために有効な場合があります。

超音波検査(エコー検査)

検査を受ける人の体表面(腹部)に超音波発生装置(プローブ)を当てて、体内に反響して返ってくる超音波の様子を画像化する検査方法(経腹超音波)です。婦人科では、より詳細な情報を得るために、膣内に細いプローブを挿入して子宮や卵巣を観察する「経腟超音波断層法検査」が一般的に行われます。卵巣の大きさ、形状、内部の状態(嚢胞性か充実性か、隔壁や充実部分の有無など)を評価し、腫瘍の良悪性の判断材料とします。

超音波を体の表面にあて、臓器から返ってくる反射の様子を画像にする検査です。子宮や卵巣をより近くで観察するため、腟の中から超音波をあてて調べる経腟超音波断層法検査を行う場合もあります。卵巣腫瘍の性質や状態、大きさをみたり、腫瘍と周囲の臓器との位置関係を調べたりします。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 卵巣がん・卵管がん 検査(https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/diagnosis.html)

CT検査

体の周囲から体内の断層画像をコンピューターによって作成する検査方法です。卵巣腫瘍の広がり、腹水や胸水の有無、リンパ節転移の有無、肝臓や肺など他の臓器への転移の有無などを評価するために広く用いられます。造影剤(ヨード造影剤)を注射して撮影する(造影CT)ことで、血流の状態や病変の性質をより詳しく評価できます。

MRI検査

MRI検査はCT検査と同様に体内を画像化・視覚化するための診断方法ですが、X線でなく強力な磁場と電波を使用します。特に骨盤内の詳細な評価に優れており、卵巣腫瘍の性状診断(良性か悪性かの推定)、子宮や膀胱、直腸など周囲臓器への浸潤の評価に有用です。CTと同様に、造影剤(ガドリニウム造影剤)を用いる場合があります。

卵巣がん・卵管がんのMRI検査では、骨盤の内部を細かいところまで調べることができます。子宮や膀胱、直腸などの臓器との位置関係や、腫瘍内部の状態、リンパ節が腫れて大きくなっていないかなどを観察し、がんかどうかを推測します。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 卵巣がん・卵管がん 検査(https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/diagnosis.html)

細胞診・組織診(病理検査)

最終的な癌の確定診断のためには、病変の一部(組織)や、剥がれ落ちた細胞を採取し、顕微鏡で詳しく調べる病理検査が不可欠です。
組織診(生検): 手術で摘出した腫瘍全体やその一部、あるいは腹膜播種などの病変の一部を採取し、組織構造を評価します。これにより、癌の種類(組織型)、悪性度(分化度)などを確定します。
細胞診: 腹水や胸水、あるいは腹腔内洗浄液を採取し、その中に癌細胞が含まれているかどうかを調べます。進行期診断に重要です。手術前に針を刺して腫瘍組織を採取する針生検は、腫瘍を破裂させて癌細胞を腹腔内に広げるリスクがあるため、卵巣腫瘍に対しては通常行われません。

手術前に境界悪性や悪性が疑われた場合には、手術の範囲を決めるために、手術中に組織や細胞を採取し、迅速に病理診断を行うことがあります(術中迅速病理診断)。術中迅速病理診断には、標本にできる組織の量や時間のほか、さまざまな制約があります。そのため、切除した組織を手術後に詳しく調べて確定した最終的な病理診断と異なる場合があります。診断が異なった場合には、最終病理診断にあった適切な術後治療を行います。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 卵巣がん・卵管がん 検査(https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/diagnosis.html)

腫瘍マーカー検査

腫瘍マーカー検査は、癌細胞が産生する特定の物質(タンパク質など)の量を血液などで測定する検査です。卵巣癌では、CA125が最もよく用いられますが、組織型によっては上昇しないこともあり、また子宮内膜症や骨盤内炎症など良性疾患でも上昇することがあります。そのため、診断の補助、治療効果の判定、再発のモニタリングなどに利用されますが、腫瘍マーカーの値だけで癌の有無や進行度を確定することはできません。他の組織型(粘液性癌など)ではCEAやCA19-9、胚細胞腫瘍ではAFPやhCG、顆粒膜細胞腫ではインヒビンなどが測定されることもあります。HE4もCA125と組み合わせて診断の補助に用いられることがあります。

卵巣がん・卵管がんでは、血液中のCA125などを測定します。がんの有無やがんがある場所は、腫瘍マーカーの値だけでは確定できないため、画像検査など、その他の検査の結果も合わせて、医師が総合的に判断します。

引用元:国立がん研究センター がん情報サービス 卵巣がん・卵管がん 検査(https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/diagnosis.html)

卵巣癌を再発させないための予防法

卵巣癌の治療後の再発リスクを完全にゼロにする方法は現在のところありません。しかし、術後補助化学療法や、それに続く維持療法(ベバシズマブやPARP阻害剤)は、再発リスクを低減し、再発までの期間を延長する効果が示されています。
卵巣癌は進行期で見つかることが多く、治療後も再発のリスクが高いため、治療方針を決定する際には、再発リスクと治療のメリット・デメリットを十分に理解することが重要です。

早期癌(I期)で、手術によって癌が完全に取り除かれ、かつ再発リスクが低いと判断される場合(例:IA期G1など)を除き、多くの場合、術後補助化学療法が推奨されます。特に、明細胞癌などは早期であっても再発リスクが高いと考えられています。

進行癌(III期・IV期)では、初回化学療法後に維持療法を行うことが標準的になってきています。

若年層で妊孕性温存を希望する場合には、温存による再発リスクの上昇の可能性も考慮し、治療方針を慎重に検討する必要があります。化学療法や維持療法を本当に省略できるのか、再発の可能性がどの程度あるかなどさまざまな要素を、医師の専門的な知見から判断してもらう必要があります。

将来的に出産を希望する方は、信頼の置ける家族・婦人科腫瘍専門医とじっくり話し合って決めるのが良いでしょう。
重要なことは、治療終了後も定期的な検診(内診、腫瘍マーカー測定、画像検査など)を受け、再発を早期に発見し、適切な治療を開始することです。

卵巣癌のステージ

ここでは、卵巣癌・卵管癌・腹膜癌のFIGO手術進行期分類(2014年)に基づき、ステージごとの状態について詳しく解説します。この分類は、初回手術(開腹または腹腔鏡)による所見と、摘出された組織の病理検査結果に基づいて決定されます。

ステージ分類

Ⅰ期:癌が卵巣または卵管に限局している

ⅠA期 癌が片方の卵巣(被膜破綻なし、表面への露出なし)または卵管に限局。腹水・腹腔洗浄細胞診で癌細胞陰性。
ⅠB期 癌が両方の卵巣(被膜破綻なし、表面への露出なし)または卵管に限局。腹水・腹腔洗浄細胞診で癌細胞陰性。
ⅠC期 ⅠC期 癌が片方または両方の卵巣・卵管に限局しているが、以下のいずれか一つ以上を満たす
ⅠC1期: 手術操作による被膜破綻
ⅠC2期: 自然な被膜破綻または腫瘍の表面への露出
ⅠC3期: 腹水または腹腔洗浄細胞診で癌細胞陽性。

Ⅱ期:癌が片方または両方の卵巣・卵管に存在し、かつ骨盤内臓器(子宮、卵管、卵巣、膀胱、直腸など)へ進展または着床している

ⅡA期 子宮、卵管、卵巣への進展または着床。
ⅡB期 その他の骨盤内臓器への進展。

Ⅲ期:癌が片方または両方の卵巣・卵管に存在、あるいは原発性腹膜癌であり、骨盤外の腹腔内(腹膜)への播種(顕微鏡的または肉眼的)が確認される、かつ/または後腹膜リンパ節転移陽性。

ⅢA期 後腹膜リンパ節転移陽性のみ(腹腔内播種なし)、または顕微鏡的な骨盤外腹膜転移(後腹膜リンパ節転移の有無は問わない)
ⅢA1期: 後腹膜リンパ節転移陽性のみ
ⅢA2期: 顕微鏡的な骨盤外腹膜転移(後腹膜リンパ節転移の有無は問わない)
ⅢB期 肉眼的な骨盤外腹膜転移(播種)が最大径2cm以下(後腹膜リンパ節転移の有無は問わない)。
ⅢC期 肉眼的な骨盤外腹膜転移(播種)が最大径2cmを超える(後腹膜リンパ節転移の有無は問わない)。(肝臓や脾臓の表面への転移を含む)

Ⅳ期:遠隔転移(腹腔外への転移、胸水細胞診陽性を含む。ただし腹水のみの場合は除く)

ⅣA期 胸水中に癌細胞が認められる状態。
ⅣB期 肝臓や脾臓の実質への転移、腹腔外(例:鼠径部、鎖骨上など)のリンパ節転移、肺、骨、脳など腹腔外臓器への転移。

ステージの分類方法

(注意:以下の治療方針は一般的な概要であり、個々の患者さんの状態(年齢、全身状態、組織型、遺伝子変異など)によって異なります。必ず主治医と相談してください。)

卵巣癌のステージ分類は、「癌が卵巣・卵管の片側にあるか、両側にあるか」「被膜破綻や表面露出、腹水中の癌細胞の有無」「骨盤内や腹腔内の他の臓器や腹膜への広がり(播種)の程度」「リンパ節転移の有無と部位」「卵巣・腹腔から遠い臓器(遠隔臓器)への転移があるか」といった癌の広がりに基づいて行われます。

この分類は、基本的に初回の手術(開腹または腹腔鏡)によって得られた所見と、摘出した臓器や組織、腹水などの病理検査結果をもとに最終的に決定される「手術進行期分類」です。

ステージごとの治療方針

Ⅰ期

原則として、標準手術(両側付属器切除+子宮全摘出術+大網切除術+腹水細胞診+腹腔内各所の生検)を行います。リンパ節郭清(または生検)も進行期決定のために重要です。術後の病理結果(進行期、組織型、分化度)に基づき、再発リスクが高い場合(IA期G3、IB期G3、IC期、明細胞癌など)には、術後補助化学療法(通常TC療法3~6コース)を行います。妊孕性温存を強く希望し、厳格な基準を満たす場合(IA期G1/G2など)には、患側付属器切除+進行期診断手術(子宮と健側卵巣・卵管を温存)が検討されますが、術後補助化学療法が必要となる場合もあります。

Ⅱ期

標準手術(Ⅰ期と同様)を行い、癌が広がっている部分(骨盤内臓器、腹膜など)も可能な限り切除します。術後は全例で術後補助化学療法(通常TC療法6コース)を行います。

Ⅲ期・Ⅳ期

進行卵巣癌の標準治療は、手術(腫瘍減量術)と化学療法の組み合わせです。
初回腫瘍減量術(PDS): まず手術を行い、肉眼的な残存腫瘍がない状態(完全切除)を目指します。手術の達成度(残存腫瘍の有無と大きさ)が予後に大きく影響します。術後、TC療法を中心とした化学療法を6コース行います。化学療法終了後、維持療法(ベバシズマブやPARP阻害剤)が推奨される場合があります。
術前化学療法(NAC)+中間腫瘍減量術(IDS): 初回手術での完全切除が困難と予想される場合や、全身状態が不良な場合に選択されます。まず化学療法(TC療法など)を3~4コース行い、腫瘍を縮小させ、全身状態の改善を図ります。その後、腫瘍減量術(IDS)を行い、残りの化学療法(2~3コース)を行います。NAC-IDS後の維持療法も同様に検討されます。

化学療法には、ベバシズマブを併用することもあります。 化学療法終了後の維持療法としては、ベバシズマブ単独、オラパリブ単独、ニラパリブ単独、またはベバシズマブとオラパリブの併用などが、BRCA遺伝子変異やHRDの状態、化学療法の奏効度などに応じて選択されます。 脳や骨など特定の部位への転移に対しては、症状緩和や予後の改善を目的とした放射線治療が行われることもあります。