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肝臓癌の治療には適さないとされてきた放射線治療ですが、トモセラピーの登場により、改めて肝臓癌への放射線治療の可能性が注目されています。ここでは、肝臓癌の概要やトモセラピー治療から見いだされる可能性などについて解説しています。
肝臓癌とは、肝臓に生じる癌の総称。「肝癌」と呼ばれることもあります。
肝臓癌には「肝細胞癌」と「肝内胆管癌」の2種類があり、肝臓癌患者の90%以上は幹細胞癌で、残りの患者が肝内胆管癌。前者は肝臓の主要組織である肝細胞に生じる癌で、後者は肝臓の中にある胆管に生じる癌です。
肝臓は「沈黙の臓器」とも言われ、肝臓癌の初期段階では自覚症状がほとんどありません。病状が進行するにつれ、むくみや倦怠感、かゆみ、腹部圧迫感、痛みなどの症状が現れることもあります。
肝臓癌の主な原因は、B型・C型肝炎ウイルスなどへの感染、およびアルコール性肝障害や非アルコール性の脂肪肝炎による肝臓の慢性的炎症など。また、他の臓器に生じた癌の転移が原因で肝臓癌を生じることもあります。
肝臓癌は、肺やリンパ節、骨、副腎、脳などに転移することがあります。
肝臓癌は再発しやすい癌と言われています。
仮に肝臓癌が根治した場合でも、再発率は年に15~20%。5年再発率は約80%とも言われているため、再発しやすい癌と考えるべきでしょう(※)。
肝臓癌が再発しやすい理由は、多くの肝臓癌の原因が肝炎ウイルスを原因としているため。肝臓癌の治療では癌細胞そのものの死滅を目指しますが、肝炎ウイルスへの攻撃は行いません。そのため、癌細胞は消滅しても肝炎ウイルスが体内に残れば、この肝炎ウイルスの活動が原因となり再発するリスクが高まります。
また、肝炎ウイルスとは異なる原因で肝臓癌であっても、すでに炎症等の影響が残った肝臓には新たな癌細胞が発生するリスクが高いと言われています。
※再発率には所説ありますが、再発しやすい癌であるとの認識は医療界で共有されています。
肝臓癌は、その症状の特徴やステージ等に応じ、主に次の6種類の中から選択的に行われます。
これら治療法のうち、もっとも根治的な治療として選択されるのが肝切除。肝臓は再生しやすい臓器として知られ、仮に肝臓全体の2/3を切除しても、やがて元々の大きさの約90%まで戻ることが可能とされているため、適応可能な患者であれば、肝切除は積極的に選択される治療法です。
なお、従来の一般的な放射線治療は、肝臓癌に対する標準治療として確立しているわけではありません。手術や穿刺局所療法の適用が難しい場合の治療法として、または骨などに転移した場合の治療法として放射線治療が用いられることもあります。
肝臓は横隔膜の下にあるため、呼吸などの動きに合わせて常に位置が変化します。この動きの中で放射線治療を行うと、照射のズレが生じるリスクが高く、周辺組織へのダメージを大きくしかねません。もとより、肝臓自体の放射線への耐性が低いこともあり、従来の一般的な放射線治療は肝臓癌の治療に適していないとされていました。
一方、同じ放射線治療でもトモセラピーによる治療の場合、仮に横隔膜の動きに合わせて病変部の位置が変化しても、その変化に合わせて病変を狙い撃ちしながら放射線を照射できるため、周辺組織へのダメージを抑えることが可能。肝臓のうち正常部分への誤照射のリスクが低減することから、昨今、肝臓癌の治療においてトモセラピーが注目されるに至りました。
なお一部の病院では、すでに肝臓癌治療の第一選択としてトモセラピー治療が行われた事例も見られます。
肝臓癌の病変を中心に放射線を照射できるため、周辺組織へのダメージが少なく、一般的な放射線治療に比べて副作用が軽減される点がメリット。一般的な放射線治療の場合、全身に倦怠感が現れたり照射した部位に皮膚炎が生じたりすることもありますが、トモセラピーによる治療の場合、これらの副作用の程度が低いとされています。
また、肝臓癌の中には肺やリンパ節、骨などに転移する例も見られますが、トモセラピーは、基本的に全身への転移へ対応できる治療装置なので、転移に対して幅広く、かつ速やかに対応できる可能性がある点もメリットです。
複数の部位へ転移した場合、それら病変へ同時に放射線治療を行うこともできるため、一度の治療で対応範囲が限られていた従来の放射線治療に比べ、治療期間が短縮される可能性があることもメリットになるでしょう。
原則としてトモセラピー治療には保険が適用されますが、多発転移や再発がんなど、一部の症例については保険が適用されません。保険適用されない場合、高額療養費制度を使い自己負担額を軽減させられる可能性もありますが、同制度には対象外とされる費用もあることから、保険適用に比べて全体的な負担額は大きくなるでしょう。
また、一般的な放射線治療に比べて副作用の頻度・程度は少ない傾向があるものの、副作用が現れる可能性はゼロではありません。皮膚炎や倦怠感などの副作用が生じた場合には、その程度により個別で対応することとなります。