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このページでは、乳癌や花咲き乳癌の治療にトモセラピーが有効なのかどうか、乳癌治療におけるトモセラピーの活用法や、従来の放射線治療と比較した際のメリット・デメリットなどを解説しています。
乳癌は乳房の乳腺に癌が生じる病気です。通常、他の臓器からの癌転移ではなく、乳癌を原発とするケースが主とされます。しかし、一方で乳癌から他の臓器などへの転移リスクは高く、リンパ節や骨、さらに肝臓や肺への癌転移にも注意しなければなりません。
乳癌は乳腺の中でも、母乳を乳頭へ運ぶ「乳管」という管状の組織に発生しやすく、乳癌のおよそ95%は乳管に生じる癌とされています。また、残りの5%では、母乳を生成する「小葉」という組織に癌が発生します。(※)
乳癌の治療は、癌が局所的に発生していて他臓器への転移もない場合、基本的には外科手術による癌細胞の除去が一般的です。しかし、乳癌が進行して「花咲き乳癌」と呼ばれる状態へ進行した場合、すでに癌細胞が他の部位へ転移している可能性も高く、外科手術だけによる治療ではなく、放射線治療や抗がん剤治療といった複数の治療が併用されます。
「花咲き癌」とは、癌細胞が増殖して皮膚の外側まで露出してしまった状態を指し、癌性皮膚創傷や癌性皮膚潰瘍とも呼ばれる病気です。そして「花咲き乳癌」とは文字通り、乳癌が乳房の皮膚にまで浸潤して、肉の花が咲いているように見えている癌です。
花咲き乳癌ではうっ血や充血によって皮膚が赤くなり、やがて皮膚表面が壊死することで血や体液がにじみ出し、痛みや悪臭が発生します。
乳癌は、早期発見できれば手術によって癌細胞を除去することが期待できます。そのため、定期的な検診などによって、乳癌の発生の有無を確認することが大切です。
一方、乳癌からの転移がすでに認められる場合、外科手術だけでなく、放射線や抗がん剤を併用した治療も必要になります。また、外科手術によって癌細胞を完全に取り切ってしまえれば良いものの、目に見えない癌細胞が残ってしまっては乳癌が再発するリスクもあるので、早期の乳癌であっても放射線治療が効果を発揮することもあるでしょう。
トモセラピーでは的確に癌細胞の位置を把握した上で、目的の癌細胞へピンポイントの放射線照射を可能にします。そのため、乳癌の治療をサポートする放射線治療として、トモセラピーには効果が期待できます。
加えて、トモセラピーでは複数の部位へ一度に放射線を照射できる上、それぞれの放射線強度を変更することが可能です。乳癌治療では癌の進行度や患者の状態に応じて、癌細胞の位置やサイズなども異なることから、トモセラピーのように応用性の高い放射線治療は適していると考えられるでしょう。
一般的な放射線治療では、乳房の前方と後方から放射線を照射して、癌細胞を治療します。しかし、トモセラピーでは360度方向から放射線を照射できるため、従来の放射線治療よりもさらに放射線量を調整して、体への負担を抑えやすく、治療効果を高めながら副作用リスクの軽減を目指すことが可能です。
トモセラピーは一度に照射できる病変部位の数が多く、各所へ転移した癌にも同時に放射線治療を行うことができます。そのため、一回の治療で照射できる範囲が限られていた従来の放射線治療と比較すると、治療回数を減らせることもメリットです。
乳癌は進行度によって他の部位へ転移しやすい癌ですが、トモセラピーでは全身への転移にも対応できる上、難症例にも対応することが可能です。つまり、発見が遅れてしまった乳癌でも治療できる可能性があることは見逃せないメリットといえるでしょう。
従来の放射線治療と比較して副作用が少ないとされるトモセラピーですが、場合によっては照射部位に皮膚炎が生じたり、放射線の影響で倦怠感が生じたりする可能性もあります。特に、抗がん剤治療と併用する場合、副作用が強くなる恐れもあります。
放射線を照射した部位の皮膚に何らかの影響が生じるケースがあります。炎症もその1つです。放射線照射の副作用として皮膚が影響を受ける場合、それは「局所的な副作用」として考えられます。患者の体質や炎症の程度によっては完治まで時間がかかる副作用です。
照射された部位の皮膚に、皮膚の乾燥やかゆみ、ヒリヒリ感、熱感、色調の変化(発赤、色素沈着、色素脱失)、むくみ、表皮剥離などの皮膚炎が起こることがあります。皮膚炎の程度は、照射の量や、部位、照射方法によって異なります。通常は、照射終了後2週間から1カ月程度で、ほぼ治療前の状態に戻ります。しかし、汗腺や脂腺の機能回復には時間がかかるため、乾燥肌で、汗をかきにくいなどの症状が残る場合があります。
引用元:国立がん研究センターがん情報サービス|放射線治療の実際(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/radiotherapy/rt_02.html)
局所的な副作用として、皮膚の表面に生えている毛が放射線の影響で抜けてしまうのが「脱毛」です。脱毛は放射線治療を終了すれば改善されることが期待されます。発毛時期については医師に相談しましょう。
放射線が口の周りや顔に照射された場合、口内組織に炎症が生じたり、口の中の粘膜が乾燥したりといった副作用が生じることも。個人差はありますが、一般的に、照射終了から2週間~1ヶ月程度で症状は緩和・回復していきます。
全身的な副作用として、倦怠感や疲労感、やる気が出ないといった症状も意識しなければなりません。トモセラピーで疲労感や倦怠感を抱くかどうかは個人差が大きく、改善までの期間も異なるため、患者ごとに観察していくことになります。
症状:疲れやすい、だるい、気力が出ない、などの症状があらわれることがあります。個人差が大きく、まったく感じない人もいれば、非常に疲れを感じる人もいます。治療中に感じた疲れは、治療が終了して数週間で感じなくなります。
原因:放射線治療中の疲れは、放射線による影響ばかりでなく、がんになったことによる精神的な疲れや、外来通院の疲れなどが加わっても起こります。
引用元:国立がん研究センターがん情報サービス|放射線治療の実際(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/radiotherapy/rt_02.html)
放射線の影響で免疫機能が低下して、感染症や肺炎のリスクが高まる点も知っておきたいポイントです。広範囲に放射線を照射している場合は血液検査で血球数を定期検査し、白血球や血小板の減少量について把握しておきます。
症状:細菌とたたかう白血球、酸素を運ぶ赤血球、出血を防ぐ血小板が減ることにより、感染しやすくなったり、貧血を起こしたり、出血しやすくなったりします。
原因:血液細胞は骨髄でつくられます。骨髄がたくさんある骨盤、胸骨、椎体など広範囲に放射線が照射されると、骨髄で血液細胞をつくる能力が低下して(骨髄抑制)、白血球、赤血球、血小板が減ってくることがあります。
引用元:国立がん研究センターがん情報サービス|放射線治療の実際(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/radiotherapy/rt_02.html)
乳癌が花咲き乳癌にまで発展してしまえば、化学的に腫瘍表面を凝固させたり、外科手術が必要になったりと、トモセラピーだけで治療を進めることは困難です。
いずれにしても、まずは詳細な検査を行った上で担当医や専門医としっかりと相談し、適切な治療プランを検討するようにしてください。
トモセラピーとはX線を使って画像診断を行うCTと、放射線照射で癌細胞を攻撃する装置が一体化した機器。患者が横たわる寝台に大きなドーナツ状の装置が合わさった形になっています
トモセラピーでは、寝台に横たわった患者がドーナツ型装置の中心に入れられた後、ドーナツ型装置の内部が回転して360度方向から患者の体へ放射線を照射することが可能です。全方向から放射線照射を行えるからこそ、癌細胞まで直線的に、最短距離での照射を狙えるようになりました。複雑な癌に関してもピンポイントで放射線照射を実施できるという点が重要です。
また、トモセラピーでは治療前にCTによる画像診断を行うことで、癌細胞の変化や状態をリアルタイムで確認しつつ、癌の照射部位を微調整して放射線照射の精度を高めていけます。
精密検査とピンポイント照射によって、癌細胞へ正確にダメージを与えつつ、患者の健康な体には負担をかけにくくするといったコンセプトが、トモセラピーを活用する意義のひとつです。
なお、トモセラピーは大きく「IMRT(強度変調放射線治療)」と「IGRT(画像誘導放射線治療)」に分類されます。
トモセラピーによって、患者の体へ多方向から、強度を適宜変化させながら放射線照射を行う治療です。放射線照射角度を幅広くすることで、癌細胞へピンポイントの放射線照射を叶えられるようになりました。また、放射線の強弱を変化させることで周辺組織や正常な細胞への影響を抑えやすくなったのもメリットです。
IMRTが有効とされる癌の一例として前立腺癌が挙げられます。トモセラピーによるIMRTであれば、複雑な形状を持った部位に対しても正確に放射線照射を行えるため、排尿機能などを確保してQOLの維持に貢献することが可能です。
IGRTは、治療前に撮影したX線画像と基準の画像を比較し、癌細胞の位置を補正しながら放射線照射を行う治療です。
治療のたびに微調整を行うため、健康な細胞へのダメージを抑えられるメリットがあります。